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《黒い美青年》
舞台へと引っ張られたカイラはなにがなんだがわからずに、右往左往する。すると舞台の端に居るもう片方の黒服が台にてハンマーのようなもので叩き出した。
――カン、カンッ! 高らかな音で会場は静まり返る。
「皆さま、この麗しい美女のカイラット・リーディングはこの豊満で魅惑的な身体でもありますが……それだけではないのです!!!」
「さぁ服を!」男がそう告げると、カイラは首を横に傾げ間抜け面をした。気に食わんかったのだろう。先ほどの男が前に出て――カイラの露出度の高いドレスを脱ぎ去ったのだ。
「なっ、なにするんだっ!!」
殴りかかろうとするカイラに男は手で制し、彼女の魅惑的な――芸術にもなるほどの絵画を会場に魅せ付ける。
カイラは、いや左右田でさえも自分の身体に施されている刺青に目を見開く。澄んだ青い瞳が零れて落ちてしまいそうだ。
「なっ、なんだ……これ?」
「――さぁ、いかがでしょう! 亡くなった有名画家のレパード・リーディングが最期に描いた傑作! なんとこの絵は今でも生きているのです! この女の中で生きております」
生きているとはどういうことなのだろうかと、カイラは自身の腹部に彫られた鳳に触れつつ、脱ぎ捨てられたドレスを拾い上げる。
会場が黄色い歓声に包まれた。
「さぁ、十万から始めましょう!」
「五十万!」
「百万!」
「いいや、私は二百なら……」
「俺は三百万なんてちょろいぜ」
声も手も挙がり会場はカイラの美しさと刺青に目が留まる。誰もがこの美女を我が物にしたいと願う。
売られているカイラは恐怖を感じた。もしもこれで金持ちだがハゲでデブで脂汗の掻いた親父に奉仕でもさせられたらと思うと……自分は一生の地獄を見る羽目になると悲鳴を上げてしまう。
ここから逃げ出そうと画策した瞬間に強く手を掴まれた。先ほどの黒服が逃がしはしないという鋭い瞳で訴えてくる。
カイラは舌打ちをし、非力な身体を呪った。――だが事態は思わぬ展開を見せる。
なんと会場に稲妻が走ったかと思えば、窓ガラスがすべて破壊されたのだ。轟音と共に阿鼻叫喚が沸き立つ会場にて、カイラはぽかんとした。
状況がさらにカオスになった。しかも今度は黒服ではなく、誰かに抱き留められたのだ。
誰だと思い顔を見ると……甘い顔立ちをした黒目の美青年が片目を閉じていた。
「君、まだオークションで売られていないよね?」
「……お、お前、だれ?」
「あは。可愛い顔の割に男みたいな言葉遣いするんだね。……ますます気に入った」
なんてキザなセリフを吐くのだと思うが、黒髪の美青年はカイラを軽々と抱えて扉を開ける。
「なに奴だっ! 捕らえろっ!」
「おい、俺を置いて逃げろっ」
「やーだね。だって、俺。君のことが気になるんだもん」
「……はぁ?」
美青年は軽く跳躍し足技で黒服たちを薙ぎ払う。刃物で立ち向かう者には舌をぺろりと舐めた。その仕草が様になる。
「雷撃、照射!」
すると雷が顕現して黒服を一網打尽にする。カイラはこの人物のこともわからない。
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