《初めまして》

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《初めまして》

 軽やかな足取りでオークション会場を抜け出したカイラは、抱えられている青年へ疑問符を示す。 「俺はどうして売られていたんだ? それに生きている刺青ってどういう――」 「サンダードル・ゼラファー。長いからドルって呼んで?」 「……はあ?」 「うんうん。そういう君も素敵だな。俺はなんて呼べばいいかな?」  答えにはなってはいないが、確かに名前を知らないと呼ぶ際に困るので「カイラット・リーディング。カイラでいい」そう告げた。  このカイラという名前は当たり前だがまだ慣れないが、それでもドルは顔を寄せてにこやかに微笑む。  その甘い顔立ちにカイラは真っ赤になってしまう。 「ふふっ。俺の顔がそんなにときめいた?」 「ば、馬鹿言うなっ!! 信じられないだろけどな、俺はちょっと前まで男だったんだ!」 「へぇ~、性転換したんだ。それでも可愛いからいいじゃん」 「いや、そういうわけ……なのか? じゃ、なくって! さっき連中が言っていた生きている刺青ってどういう意味だよ」  するとドルはまた跳躍をして建物を軽々と飛び越えたかと思えば、カイラを安全な場所に避難させて下ろした。  カイラは不思議な様子でドルを見つめた。鼻筋が通っていてきめ細やかな肌は美しいとさえ感じてしまう。 「君が、カイラが本当に願いを込めて放てば、刺青の生き物は君に応えてくれるはず」 「……どういうことだよ?」 「う~ん、じゃあまずは俺が行きつけの酒場に行って欲しいな。試しに出してみてよ」  困惑するカイラではあるが、酒場という言葉に惹かれた。そういえばこの世界に来てから酒を呑んでいない。  ビールが呑みたい。キンキンに冷えたビールが呑みたい。 「…………お前が手伝ってくれるのならやってみる」 「もちろん」 「あと奢れよ。俺はビールが呑みたいんだよ」 「あは。それも約束してあげる」  ニヒルに笑う王子様フェイスにたじろぎつつ、カイラは自分の腹部に彫られた鳳を想起した。大空を羽ばたくように、駆けて行く様は素晴らしいものであろう。  頭に大きな鳥をイメージする。……カイラの青い瞳が輝いた。 「鳳よ、我らを乗せて羽ばたけっ!」  身体が瞬時に熱くなりふらりとする。特に腹部が焼けるように熱い。だが、光に包まれたかと思えば――翼を広げた鳳がこちらに跪いてカイラに視線を合わせた。 「す、すげぇ……」 「すごいのはカイラだよ。才能があるんだね。――いいこいいこ」  軽々しく撫でられて羞恥のあまり手を除けるが、それでもドルはにこにこと笑っていた。  男であったというのに女の扱いをされるのは気恥ずかしさが伴われる。だが(しもべ)である鳳は鋭い視線を向けた。なんとなく察したカイラは鳳の頭や腹部を撫で上げる。 「俺とこいつを指定の位置まで運んでくれ。できるか?」  鳳はドルを見て睨みつけてからカイラを見て頭を差し出す。もっと撫でて欲しいようだ。カイラは少し微笑んで撫で上げた。  準備ができたように鳳が軽く鳴く。 「じゃあ行きますか。俺が案内するから」  鳳は端正な顔立ちのドルを睨みつつ二人を乗せて羽ばたいた。
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