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《泥棒》
大空を翔る鳳の背に乗っているとカイラは開いた口が閉じないが、ただ茫然と、夜空に散らばる星々を見て美しさに浸るのだ。
「きれい……だな。それに、風が気持ちいいな!」
「そんな興奮しないでよ、カイラ。でも気持ちが良いのは本当だね」
「あぁ。こんなの運転とは違う気持ち良さだっ!」
トラックの操縦を思い出し、カイラは跨っている鳳の首に巻かれたロープで運転を図る。生きている動物をコントロールするのは困難極まりないが、鳳は少し鳴いて右へと旋回した。
空気の圧に阻まれるが、ドルにしっかりと抱えられているので落ちずに済んでいる。「そのまま直進してっ!」ドルの快活な声でカイラはロープという名の手綱を保たせて水平にした。
地面へと近づいたときに手綱を強く引っ張り上げて速度を落とし、ゆっくりと着陸する。鳳が軽く鳴いたのでカイラは優しく抱き締めた。
「よくやったぞ~、頑張ったな」
太陽の香りがする毛皮に触れてふんだんに匂いを嗅いで撫で上げれば、鳳は嬉しそうに鳴く。――するとあろうことか、鳳は光に包まれたのだ。
熱を浴びたように腹部が熱くなるが、気が付けば鳳はカイラの前から消え去った。
「消えた……、じゃああの鳥は俺の腹に……?」
自身の熱くなった腹部に触れて脱ぎだそうとしたが、ドルが太い息を吐いてカイラの華奢な腕を阻むのだ。
「女の子がこんな街の中で脱ぎだすのは良くないよ」
「だってどうなっているのか気になるしさ」
「それでもだ~め。もう、君って露出狂なの?」
「そんなわけないだろっ! さっきは無理やり脱がされたんだ!」
怒鳴って抗議をするがドルは「酒場の前に服屋に行こう」などと言ってカイラの手を取って繫いだ。ドルの手は骨ばっているが絹のように肌触りが良い。
自分が男だったときはささくれだらけでタコなどができていた。まさに労働者の手であった。
「……お前、手が妙に奇麗だな。ていうか、なんで俺を攫いに来たんだよ?」
カイラを繫ぐ手に力が入る。鼓動が高まったのと同時にドルは振り向いた。
彼は相も変わらず笑みを絶やさない。
「俺は君を奪いに来た泥棒さ。君がオークションで売られている広告を見てから、一目で気に入って――奪いたくなった」
「へっ?」
「君が欲しくなったんだ」
ドルが突如として跪いたかと思えば手元へ唇を施した。軽いリップ音を鳴らしたかと思えばまだ笑みを絶やさない。
「美しい君を攫いに来た。そして君を俺のパートナーとして迎えたい。……駄目かな?」
カイラは自分でもしたことがないドルの行為にりんごのように赤くなり、口を開閉させた。だが次の瞬間にはドルは手を引いていた。
「さっ、君の答えは聞けたし早く洋服屋さんに行こうか。酒場の近くなんだ」
「な、きっ、聞けてねぇよっ! なに、自己完結させているんだよっ!??」
「まぁ君の答えがイエスだろうがノーだろうが、君を俺のパートナーにするけどね」
「じゃあ聞くなよっっ!!」
「あは。――じゃ、行こうか」
明朗な泥棒と共にカイラは赤い顔を伏せて歩き出す。――歩調は一緒に合わせてくれた。
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