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 差し出して手。小刻みに震える。足も今にも崩れ落ちそうだ。目の前にいるのは憧れの先輩如月ゆうとさん。生まれてはじめての告白は同性の先輩にだ。悩みに悩み抜いて一世一代の覚悟で臨んだ。下げた頭も上げられず先輩の顔を見れない。先輩はどんな顔をしているのだろう? やっぱり迷惑なのかな?  差し出した手に温もりを感じた。 え? と顔を上げると先輩はふにゃっと笑って見せた。 「これから僕の彼氏としてよろしくね」 「マジですか!?」 「マジマジ。あさひのこと、嫌いじゃないもん。全然オーケー。よろしくね」  先輩は僕の手を両手で掴んでぶんぶんと振った。それが五月のこと。僕は舞い上がっていたんだ。先輩のことを詳しく知らなかったのに。  ゆうと先輩は背が低くて色素が薄くて、おそらくひげなんか生えない。髪もツヤツヤな黒な上に性格も可愛らしくて誰からも愛される小動物のような人だ。そんな、ゆうと先輩と恋人になれたのだから舞い上がって当たり前だ。恋人になってからの登下校はゆうと先輩が僕の家に迎えに来て手繋ぎで歩いた。先輩は同性であることなんか全く気にしない。 「あさひ、寝グセついてる」  そう言っては僕の頭に手を伸ばして手ぐしで髪を梳かす。先輩を待たせちゃ悪いと身支度に手を抜いて、ついつい髪が跳ねたままになる。そんな僕を先輩は優しく見守っている。なのに僕は本当にくだらないことを気にしている。それは六月に入って衣替えを行った日。先輩は半袖の白いシャツを着て僕を迎えに来てくれた。急いで身支度をした僕はまた寝グセがついていた。 「早めに来てるんだから焦んなくていいんだよ」  先輩は笑って僕の髪に手を伸ばす。その時、見えてしまったんだ。先輩が伸ばした腕の奥。腋に黒いものが。  僕はいけないものを見た気がして目を逸らす。 「あさひ、どうしたの?」 「なんでもないです! 行きましょう!」  誤魔化すように先輩の手を握る。その黒いものがちゃんとは確認しなかったが、場所が場所だけに腋毛だと思ってしまった。瞬間気付いたんだ。僕は先輩の見た目しか見ていなかったと。小動物的で頭髪意外に体毛はないと。勝手にそう思い込んでいた。先輩をお人形さんみたいに見ていたんだと。
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