溺愛幼馴染

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溺愛幼馴染

「えっ」  陽彩(ひいろ)は母の言葉が信じられず目を瞬いた。 「だから、お隣の新條(しんじょう)さんが戻ってくるんだって」 「新條さん……隣の家に?」 「そう」  窓の外の、一年ほど空き家になっている隣家を見る。以前には社宅として貸していたとかで中年の夫婦が住んでいたが、その人たちが出てからは誰も住んでいない。そういえば最近人が出入りしている気配が窺えた。まさかそんなことが起こっていたなんて。だが、まだ信じたくない。 「じゃあ、高臣(たかおみ)くんも戻ってくるの?」  彼は留学をしているなどの幸運はないだろうか。 「そりゃそうでしょ。息子だし、陽彩と同じ年なんだから、まだひとり暮らしには早いわよ」 「……そう、だよね」  一気に気持ちが落ち込んだ。あの意地悪な彼がまた隣に戻ってくるなんて。せっかく四月から高校生になるのに、暗い春になる。  寝て起きたら夢かもしれない。もう一度寝よう、と階段に足をかける。 「ちょっと。また寝るの?」 「春休みなんだからいいじゃん」 「そろそろ少しくらいはしっかりしてよね」 「努力はする」  自室に戻り、これ以上ないほど深い息を落とす。彼が戻ってくるなんて想像もしていなかった。小学校にあがるときに引っ越してからだいぶ経つから、もう戻ってこないものだとばかり思っていた。  最後の砦は違う高校であること。まさか同じ高校だなんて偶然があるはずがない。そう考えたら光が見えた。  気を取り直してベッドに横になる。なるべく学校に長くいて、隣との接点を減らしておけば会うことは少ないはずだ。 「大丈夫、大丈夫」  自分に言い聞かせて逆に不安になった。
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