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「あの」
「うん?」
「この状況は……」
高臣に押し倒されて、首もとに顔をうずめられている。吐息が首にかかってくすぐったい。
「だって、ずっと我慢してたんだ」
「だからって」
「だめ?」
そういう顔で聞くのは反則だ。断る理由もないし、陽彩も嫌ではない。だが、恥ずかしい。
顔を腕で隠すようにすると、高臣が少し笑うのがわかった。きっといつもの意地悪な笑みだろうが、確認する勇気がない。
「そうやって可愛いことすると、いじめるって言ったでしょ?」
「いじめるの、や」
唇を尖らせて文句を言ってみる。高臣の手が服の上から優しく身体をまさぐり、頬が熱くなっていく。
「じゃあ、すごく優しくするよ」
「ほんと?」
「うん。だから、いい?」
優しくするなら、と頷くと、口づけが落ちてきた。最近知った、大人のキス。高臣の舌が陽彩の舌に絡まり、歯を立てたり吸われたりすると腰の奥が疼く。しがみつくように高臣の背に腕をまわすと、きつく抱きしめられた。
「陽彩、可愛い」
「んっ……」
低くかすれた声が耳もとでささやき、ぞくりと背筋に快感が滑りあがる。陽彩の反応を楽しむように何度もささやかれ、それだけで息があがってくる。
耳の形を舌でなぞられ、耳朶を食まれた。
「ぅあ……っ」
飛び出した声があまりに甘みを帯びていて、慌てて手で口を押さえた。
服を乱され、するすると脱がされていく。気がついたときには下着だけの姿になっていた。
「陽彩も、脱がせて?」
「……うん」
高臣のシャツのボタンに指をかけるが、緊張で指先が震えてなかなかうまくはずせない。そんな様子さえ楽しまれているようだ。
「焦らなくていいよ」
「う、うん」
ゆっくり、ひとつずつボタンをはずしていく。露わになったなめらかな肌に思わず手を当てると、高臣が苦笑した。
「これ、どきどきするね」
「する」
どきどきしているのは陽彩だけではないとわかり、安堵する。キスを交わしながら互いの肌の感触を知る。
身長が高いだけあって身体つきもしっかりしている高臣は、陽彩におおいかぶさったまま肌にもキスを落としはじめた。鎖骨に軽く歯を立てられ、また恥ずかしい声が出た。
「可愛い声」
「意地悪、しないで」
「意地悪なんてしないよ」
胸の突起を指がとらえ、こねるようにいじられる。それだけでも淡い快感が生まれ、肌が火照っていく。乳暈ごと口に含まれたら身体が大きく跳ねた。
「あっ……あ」
食まれ、尖りを舌でつぶされ、熱がどんどん湧きあがる。恥ずかしいくらいに反応してしまう自分が恥ずかしくて逃げたくなるが、逃がしてくれるはずがない。羞恥に頭の中が熱くなりながら、鈍い快感を享受した。
「ここ、膨らんで食べやすい」
「やっ……もうやめて。恥ずかしい……」
「じゃあやめる」
あっさり胸の尖りを解放した高臣に、首を横に振る。口角を笑みの形に保ったまま首を傾ける高臣は、陽彩の言いたいことをわかっているのに言わせようとしている。
「なに?」
「……」
「言ってくれないとわからないよ?」
意地悪はしないと言ったのに、いじめられている。まっすぐに見つめられているだけで肌が甘く騒いだ。
「……もっと、舐めて」
高臣の髪に指をさし込んでねだると、優しい微笑みが深くなった。乳暈の形をなぞるように舌で円を描き、舌で尖りを転がされる。
「陽彩、可愛い」
肌の上を這っていた手が、陽彩の下着にかかる。するりとそれを脱がされ、慌てて脚を閉じようにも、間にある高臣の身体のせいで閉じられなかった。すでに張り詰めて濡れた昂ぶりが露わになり、唇を噛んで羞恥に耐えた。
「唇噛んじゃだめ」
「ん……」
歯を立てたところを舌で撫でられ、ゆっくりと唇をほどく。そのまま大きな舌が口内に滑り込み、陽彩を惑わせた。
「可愛いなあ、ほんと」
舌先を吸った高臣は満足そうに口もとを緩める。手はしっかり昂ぶりをとらえていて、根本から先端に向かって扱かれると腰が浮く。濡れた音が生々しく、耳をふさいでしまいたいくらいだった。
「高臣のも、触る」
陽彩も手を伸ばし、高臣の形を変えた猛りに触れた。熱くてずしりと重量も硬度もあるそれに、思わず唾を飲み込む。
「陽彩、気持ちいい」
「よかった」
手のひらで撫でるくらいしかできないが、それでも頬を上気させる高臣の表情に見惚れる。その表情を見ているだけで、陽彩も自身がさらに硬起していくのがわかった。
昂ぶりを扱いていた手が奥まったところに滑り、陽彩は緊張から思わず身体を強張らせた。なだめるようなキスをもらい、少しずつ力を抜く。
「怖い?」
「へいき……」
「本当に?」
「……ちょっと怖い」
素直に気持ちを吐露すると、高臣はほっとしたような顔をした。
「ちゃんと言ってくれてありがとう」
優しい言葉に心がほぐれ、身体の力も抜ける。
高臣がこんなに優しいのに、自分は高臣に対して優しくないな、と突然思った。だが、それをこの状況でどう伝えたらいいかわからない。なんとなく目を泳がせると、高臣が不思議そうな顔をした。
「どうしたの?」
「うん……」
「やっぱり嫌になった?」
「違う」
首を横に振って、高臣をじっと見つめる。高臣は首をかしげた。
「俺になにかしてほしいこと、ある?」
「え?」
「俺、高臣になにもできていないなって思って」
反省した、というと、高臣は小さく声をあげて笑った。可笑しなことを言ったつもりはない。だが、受け取った相手は楽しそうに笑っている。
「陽彩がいてくれるだけで充分」
「でも」
「じゃあ、陽彩からキスして?」
火照る顔を隠さず、高臣のうなじに手を添える。ゆっくりと唇を重ねると、噛みつくようなキスで返された。
「んぅ……ん、ぁ」
深いキスで力が抜けた陽彩の脚の間に触れていた指先が、窄まりに滑り込んだ。丁寧にほぐす動きに、恥ずかしさが拭えない。思わず顔を隠すと、高臣は「陽彩」と名を呼んだ。
「高臣……、恥ずかしい」
「困ったな。可愛すぎる」
高臣に言わせたらなにをしても可愛いのではないか、と唇を尖らせると、高臣は認めるように頷いた。
キスで緊張をとくように、何度も唇が触れる。指が増やされて、中に形をはっきり感じた。
「お、俺……大丈夫かな」
「どういうこと?」
「心臓破裂するかも」
陽彩はこんなにどきどきしているのに、高臣はいつものなんでもない、すまし顔だ。少し悔しい。わずかに頬が紅潮していること以外、普段どおりに見える。
「大丈夫。俺も同じだよ」
「うそ」
「ほんと」
疑いながらも高臣の胸に手を当てると、言葉のとおりに心臓が速い鼓動を刻んでいた。
「ね。陽彩だけじゃないでしょ?」
「うん」
お揃いだ、と嬉しくなって口もとが綻ぶ。ほっとしたような高臣が指を抜き、その感覚に声が漏れた。
「入る?」
「たぶん」
「高臣のが、入るんだよね」
角度を変えている熱い塊に触れると、高臣が少し眉を寄せた。あまりに色気の溢れる表情に、身体の奥が欲情するように激しく熱が燃える。
両脚を左右に開かれ、軽く腰を持ちあげられた。押し当てられた猛りが、後孔を少しずつ押し開いて進んでくるのを受け止める。
「うぁ、……あ、あぅ」
「痛くない?」
「へ、いき……」
痛くはないが、違和感がすごい。思わず顔を歪めるが、なだめるキスでほどかれた。
「入った」
「全部?」
「全部は入らないけど」
「全部入れて」
しっかりした腰に脚を絡めると、困ったように表情を変えた高臣が首を横に振る。
「陽彩が壊れたら困るから」
優しく抱きしめられ、頬や額にキスをくれる。陽彩が舌を少し出してねだると、また困ったような顔をした高臣が、その舌を絡め取った。呼吸まで貪るような口づけは深く甘い。ねっとりとしゃぶるように舌を吸いあげられ、くぐもった声とともに腰が跳ねた。
「陽彩……可愛い。可愛い陽彩。もっと可愛いとこ見せて」
「あっ……あ、あ、んっ」
腰を揺らした高臣の動きに、濡れた声が零れる。陽彩の声に含まれるつやを感じ取った高臣が律動を刻む。奥を穿たれ、痺れるように快感が駆けのぼった。
「あ、奥……、だめ……っ」
だめと言いながら、自分の声が甘く媚びているようで恥ずかしくなった。
大きな手が陽彩の腰を掴む。
「ここ?」
「ああ……っ!」
背が反り、その形をなぞるように高臣の手が腰を撫でた。抜かれても気持ちよくて、シーツを掴んでいた手を高臣に向かって伸ばす。身体を屈めた高臣の背に腕をまわし、きつくしがみついた。
「気持ちい……っ、高臣……、あっ」
「うん。俺も気持ちいい」
熱のこもった声でささやき、声と同じように熱い視線が陽彩をとらえる。溶けてしまいそうなほどの快感が怖くなり、陽彩は身を捩った。
「大丈夫」
「あ、あっ……だめ、気持ちいい、おかしい……っ」
「おかしくないよ。大丈夫」
なにをされても気持ちよくて、快楽の波に溺れていく。高臣にしがみついていても意識がどこかに飛んでいってしまいそうで、思わず涙が零れた。高臣はその涙を唇で拭い、両頬に何度もキスをくれる。
「高臣、高臣……っ」
縋るように繰り返し高臣を呼ぶ。名を呼ぶたびに身体の奥から言いようのない熱がせりあがってきた。腰が重くなり、鋭敏に快感を拾ってしまう。内腿が引き攣り、せわしない呼吸で胸が喘ぐ。
「あ、んっ、んっ……」
「いきそう?」
「ん、いく……っ、いっちゃう……っ」
最奥を穿たれ、目の前が白く光った。高臣の息も荒く熱い。互いに限界が近いことがわかり、陽彩は嬉しさで身体を震わせた。腰の奥から熱い滾りが湧きあがり、脇腹が細かく痙攣する。劣情を吐出する陽彩の奥で、高臣もまた白濁を放った。
「高臣……高臣」
首を必死で抱き寄せ、何度も陽彩からキスをする。高臣は甘くかすれた声で答えてくれた。
「好きだよ、高臣。もう自分を責めないで」
「え?」
「昔の意地悪も、俺にとって全部幸せな思い出になったから」
高臣は驚いたように目を見開き、それからくつくつと喉の奥で笑った。
「ありがとう、陽彩」
汗ではりついた前髪をよけて唇が優しく触れた。高臣の腕の中におさまり、首もとに顔をうずめると高臣の柔らかいにおいがする。嗅ぎ慣れたにおいに汗が混じり、妙に男らしく感じた。
「陽彩、大好きだよ」
甘くささやかれ、思考がとろんと蕩ける。意地悪だった彼は、陽彩に何度も愛を伝えてくれた。
(終)
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