溺愛幼馴染

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「陽彩、いい子」 「やめて。子どもじゃないんだから」  頭を撫でられると恥ずかしくなる。頬が熱くなって顔を背けると、高臣はしゅんと肩を落とす。だが、高校生男子が頭を撫でられて嬉しいなんて恥ずかしい。高臣に頭をぽんぽんと撫でられると、心まで同様に弾むのだ。そんな自分がもっと恥ずかしくて陽彩は逃げる。  陽彩の心のうちなど知らない高臣は本気で落ち込むから、申し訳ないという気持ちはあるのだけれど、素直に「嬉しい」なんて言えない。思っていても口には出せないことがあるのは仕方がないことだ。  いつでも優しい高臣。意地悪なんて嘘のように陽彩に甘い。  素直になれない陽彩は彼を簡単には受け入れられなかったけれど、徐々にそれもほぐれていった。 「陽彩、これならきっとおいしいよ」 「なに?」 「食べてみて」  高臣が買ってきてくれたポタージュを恐る恐る食べると、甘くておいしい。つい、もうひと口とスプーンを動かした。 「おいしいでしょ?」 「うん」 「これなら陽彩が嫌いな人参も食べられると思ったんだ」  人参の味などしなかったので驚く。カップに入ったポタージュをまじまじと見つめると、高臣が笑うのがわかった。 「人参入ってるの? 本当に?」 「本当に。たっぷり入ってるよ」 「おいしい」  もっと食べたいとポタージュをすくおうとすると、スプーンを取りあげられた。 「高臣?」 「あーん」 「……そういうこと、したいの?」  微笑みながら頷いて、スプーンを差し出す高臣をじっと見る。そっとポタージュののったスプーンを口に含むと、先ほどよりおいしく感じた。 「可愛い。もっと食べて」 「可愛くないけど、食べる」  ひと口ひと口優しく食べさせてくれて、カップが空になってからはっとする。ここは公園だ。 「た、高臣……。見られてるかも」 「誰もいないよ。それに俺は見られてたほうがいいな。陽彩に手を出されない」  唇の端を指の腹で拭われ、ぽうっと頬に熱が浮かぶ。 「やだよ。恥ずかしい」  照れ隠しでそんなことを口にする自分も情けないが、他になんと言ったらいいかわからなかった。熱い頬を手で押さえると、高臣はまた笑顔を浮かべる。 「そういう反応とか、可愛すぎてたまらない」  なんだか悔しくて唇を尖らせたら、そこを指ですうっとなぞられた。とても不思議な色をしている瞳を見つめ返す。そこには熱いものが宿っているように窺えた。 「キスしたい」  現実味のない言葉に、夢を見ているときのようにふわふわと頷いて受け入れそうになる。はっとして首をぶんぶんと思い切り横に振った。高臣はそんな様子さえ愛おしげに目を細めている。 「だ、だめ。つきあってるわけじゃないんだから」 「そうだよね」  残念そうな表情に胸が痛むけれど、簡単にキスなんてされては困る。受け入れるにも覚悟が――そう考えて、あれ、と思う。自分は高臣とキスをすることに対してはなんとも思っていない。ただ受け入れる覚悟がない。  ちら、と隣を見あげると、その視線に気がついたようで甘い微笑みが返ってくる。とくんと脈が速くなり、いつの間にか陽彩にとって高臣が苦手な存在ではなくなっていることに気がつく。穏やかな優しさに包まれて、固まっていた心がたしかに溶けている。  面映ゆさに視線を逸らして自分の手を見おろす。昔手を繋いだときは高臣も陽彩も小さな手だった。身体とともに心も成長しているのだと、急に真剣に考えた。  ぽん、と頭を撫でられる。 「陽彩が好き」 「……」 「大好き」 「……恥ずかしいよ」  顔を隠すように軽く俯くと、髪を梳くように手が動く。大きくて温かい手を捕まえて、頬ずりしたくなるのをぐっと堪えた。  陽彩に好かれたい一心で動いているとしか思えない高臣に、戸惑いが薄れているのがわかる。高臣はきっと、そんな変化に気がつくくらいに陽彩をよく見てくれている。
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