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人々がひしめき、にぎわう帝都の繁華街……の、裏手。そこは人気もほとんどなく、何処か薄暗い雰囲気を漂わせていた。
そんな路地裏で、没落令嬢朝霧 姫子は柄の悪い二人の男性に詰め寄られていた。
「と、いうことだ。金に関しては、お前にきっちりと払ってもらうこととなった」
男性の一人が、姫子にぐいっと顔を近づけて、そう告げる。
その手にあるのは、一枚の紙。書き方からして、借用書だろう。
つまり、この男性は金貸しであり、姫子は金を貸してもらった身……ということに、一見すれば思える。
けれど、実際は少し違う。
「そんなの知りません。そもそも、それは伯父さまがこさえた借金です」
ゆるゆると首を横に振って、姫子はそう抗議をする。
しかし、男性たちは気に留めた風もない。
そりゃそうだ。彼らにとって、金は返してもらえればいいもの。誰から返してもらっても、一緒なのだ。
姫子の伯父夫婦が逃げた以上、返済の義務は姫子にのしかかってくる。そう、彼らは話していた。
……かといって、納得できるかどうかは、また別問題。
「じゃあ、その伯父とやらに連絡を取ってもらおうか」
男性の一人が、そう声を荒げる。
それは、無理な話だった。なぜならば、数日前から。姫子も、伯父夫婦と連絡が取れないのだ。
住んでいる邸宅からも金品がなくなっており、大方夜逃げでもしたのだろう。……それも、姫子がいない間に。
「そ、れは……」
視線を下げて、言葉を探す。
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