第2章

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 結局、百貨店では生活に必要な最低限のものを買ってもらった。  和史はなにも言わずに支払いを済ませてしまい、買ったものを馬車に積み込んでもらう。 「さて、帰るぞ」  和史がそっと姫子に手を差し出してくる。その手に自身の手を重ねて、姫子は馬車に乗り込んだ。  カタカタと走る馬車。姫子はそっと外に視線を向ける。和史はなにを考えているのだろうか。彼も、窓の外を見つめていた。 「……今日は、ありがとうございました」  なんというか、沈黙がいたたまれなくて。姫子は当たり障りのないお礼の言葉を口にした。和史は、こくんと首を縦に振るだけだ。 「そ、その、なんでしょうか。ご迷惑をおかけしてしまって……」  しどろもどろになりつつそう言えば、和史が首を横に振ったのがわかった。 「別に、迷惑だなんて思っていない」  彼がはっきりとそう言葉を口にする。
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