第3章

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 姫子は幼い頃に何度か、両親に連れられ月橋家の本宅を訪れている。  広々とした庭園の先にある、立派な日本家屋。それは姫子の記憶の中に未だにうっすらと残っている。  厳格な当主と、穏やかな夫人。彼らは姫子を快く迎えてくれて、両親と談笑していた。  それは、もう遠い昔の話なのに――どうして、未だに覚えているのか。それが、姫子にはわからなかった。  和史と共に馬車に揺られ、月橋家の本宅にたどり着く。  馬車から下りて顔を上げれば、視界に入ったのはあの頃と少し違う景色だった。  あの頃は何処か温かみがあったのに、今ではそれが感じられない。否応なしに、流れた年月の長さを思い知らされる。 (ご当主さまと奥さまは、お元気かしら……?)  ぼうっとしつつ邸宅を見つめていると、和史に腕を引かれた。だから、姫子はハッとして彼に続いて歩き出す。  いすずにめかしこんでもらったためか、今の姫子は生粋の令嬢と言っても過言じゃない。  あの日買ってもらったワンピースとつばの広い帽子。和史に腕を引かれていると、まるでお嬢さまにでもなったような気分だ。 (冷え切ったような雰囲気だわ。あの頃は……確か)  和史と、その弟たちが楽しそうに生活をしていたはずだ。  それを思い出して少し困った姫子に、和史はちらりと視線を向けてきた。 「……あれから、色々とあったんだ」  彼が静かな声でそう告げた。
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