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一体なにがあったのか。それは姫子が尋ねてもいいものなのだろうか?
……いや、きっと尋ねないほうがいいのだろう。
「そう、なのですか」
姫子はそう言うのが精いっぱいだった。
立派な玄関にたどり着いて、和史が呼び鈴を鳴らす。
しばらくして、玄関の扉が開いた。そこにいたのは、中年の女中。
「お待ちしておりました、和史坊ちゃま。……旦那さまと奥さまは、奥でお待ちでございます」
頭を下げた女中の視線が、姫子に注がれる。彼女は、一瞬だけぽかんとしたものの、「姫子さまでございますか?」と問いかけてくる。
姫子はその問いかけに、控えめに頷いた。
「まぁまぁ、ご立派になられたのでございますね」
「……えぇっと」
「申し遅れました。私は田山でございます」
にっこりと笑った彼女を見て、姫子の記憶が蘇る。
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