第3章

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 あの頃、年長者である和史が幼い姫子の面倒を見るのは常となっていた。  だが、和史とてまだまだ子供。それ故に、数名の女中が交代で二人の側についてくれていた。  田山は、そのうちの一人だった。 「……ずっと、心残りでしたの。あのとき、どうして私どもは姫子さまを気遣わなかったのか……と」  そう言った田山の言葉は、姫子の胸に突き刺さる。 「……仕方がないわ。おじさまは、外でのお顔は大層よかったもの」  ぽつりとそう零した。 「だから、誰かを責めることはないわ」  ゆるゆると首を横に振る。あの伯父の本性を見破るというほうが、無理だったのだ。 「姫子さま……」 「それにしても、田山も元気そうでよかったわ。私も、あなたたちのことが気になっていたの」  出来る限り笑みを浮かべてそう言うと、田山は目元を拭った。 「さようでございますか……。私どもは……そうですね。みな、元気ですよ」  ……何処か含みのある言い方だった。 「とはいっても、もうこのお屋敷に残っているあの頃の人間は、私くらいなものですが……」  肩をすくめて、田山がそう言う。  その言葉に姫子がぽかんとしていると、隣に立つ和史が「こほん」と咳ばらいをする。 「積もる話はあるだろうが、両親を待たせるわけにはいかない」 「そ、そうで、ございますね」  和史の言葉は最もだったので、姫子は頷く。田山も頷いて、邸宅の中に二人を入れてくれた。 「姫子、行くぞ。……あまり、気負う必要はない」 「……はい」  一度だけ姫子の肩を撫でて、和史がそう言う。姫子は、静かに頷いた。
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