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あの頃、年長者である和史が幼い姫子の面倒を見るのは常となっていた。
だが、和史とてまだまだ子供。それ故に、数名の女中が交代で二人の側についてくれていた。
田山は、そのうちの一人だった。
「……ずっと、心残りでしたの。あのとき、どうして私どもは姫子さまを気遣わなかったのか……と」
そう言った田山の言葉は、姫子の胸に突き刺さる。
「……仕方がないわ。おじさまは、外でのお顔は大層よかったもの」
ぽつりとそう零した。
「だから、誰かを責めることはないわ」
ゆるゆると首を横に振る。あの伯父の本性を見破るというほうが、無理だったのだ。
「姫子さま……」
「それにしても、田山も元気そうでよかったわ。私も、あなたたちのことが気になっていたの」
出来る限り笑みを浮かべてそう言うと、田山は目元を拭った。
「さようでございますか……。私どもは……そうですね。みな、元気ですよ」
……何処か含みのある言い方だった。
「とはいっても、もうこのお屋敷に残っているあの頃の人間は、私くらいなものですが……」
肩をすくめて、田山がそう言う。
その言葉に姫子がぽかんとしていると、隣に立つ和史が「こほん」と咳ばらいをする。
「積もる話はあるだろうが、両親を待たせるわけにはいかない」
「そ、そうで、ございますね」
和史の言葉は最もだったので、姫子は頷く。田山も頷いて、邸宅の中に二人を入れてくれた。
「姫子、行くぞ。……あまり、気負う必要はない」
「……はい」
一度だけ姫子の肩を撫でて、和史がそう言う。姫子は、静かに頷いた。
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