第1章

8/28
前へ
/69ページ
次へ
 彼の顔を見たとき。姫子の頭の中に封じ込めていた記憶がぶわっと溢れ出てくる。    あれは、両親が亡くなる前。まだ、ずっとずっと幸せだった頃の記憶……。   「どうやら、ようやく思い出したようだな」    しかし、彼の態度は何処か腑に落ちない。    姫子の知る彼は、物腰柔らかで、穏やかな人。決して、こういう風に上から目線で物事を言う人ではなかった。    だからこそ、戸惑う。    彼は、自らが知る月橋 和史なのだろうかと。   (……でも、あれから八年も経っているの。私が変わってしまったように、きっと和史さんも変わってしまったんだわ)    ゆるゆると首を横に振って、考えを振り払って。    姫子は和史を見上げた。彼の美しい目が、姫子を射貫いている。    心臓がどくりと大きく音を立てて、不思議な感覚に落としてくる。   「と、いうわけだ。そして、姫子の所有権は俺にある。……わかるな?」 「……はい」    先ほども言った通り、今の姫子は和史の所有物のようなものだ。    彼がどれだけのお金を借金取りに払ったのかは知らないが、あの反応からするに、かなりの大金であろうことは予想出来る。  
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

742人が本棚に入れています
本棚に追加