彩花は……

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彩花は……

 静岡の実家に連れ戻されてから四年の月日が経っていた。  今は両親の元で何事もなかったかのように穏やかな毎日を過ごしている。  まるで憑き物が落ちたように男たちと付き合うこともなく、本来の伸び伸びと育った明るい元気な彩花に戻っていた。  途中入社の信用金庫でも元々持っていたリーダーシップを発揮し短大を卒業して入って来る後輩の面倒を見る立場になっていた。  彩花は、きょうが二十七歳の誕生日。  あの時、同意書に署名してくれた従兄が祝ってくれていた。もちろん彼には変な下心は微塵もない。小さな頃から妹のように可愛がっていた従妹に 「とりあえず、彩花に本物の恋人が現れるまでボーイフレンドの代わりだ」 そう言って笑っていた。 「何言ってるの。私の事より自分の彼女を真剣に探しなさいよね」  そう言いながら彩花は、この二歳年上の従兄に心から感謝していた。それまでと少しも変わる事無く彩花と付き合ってくれている。    細かな事情は聴かなくても彩花が傷付いて戻って来た。どんな事でも力になりたかったし支えてやりたいと考えていたようだ。  まだまだ田舎のこの町では嫌な噂も広がっていた。東京で男に騙されて妊娠させられて捨てられたと。  でも四年経った今、そんな噂をする人もいなくなった。  彩花の信用金庫での仕事振り、窓口の応対や言葉遣い、爽やかな笑顔に好感を持つ人が増えていった。  中には、是非、家の息子の嫁にと縁談を持って来る婦人も居た。彩花は丁重に、お断りしたけれど……。  結婚は考えてはいない。私のような女が結婚なんかしてはいけないと思い込んでいた。  もう今となっては遠い過去の過ちだと言えるのに……。  そんなある日、いつものように窓口で忙しく働いていると 「春野? 春野だよな」  受付の番号札の順番が来たお客様が驚いたように彩花に言った。 「えっ? ……先輩?」 彩花は、もっと驚いていた。 「久しぶり。どうしてここに居るんだ?」 「静岡は私の実家なの。四年前に戻ってから、ここで働いてる」 「そうか。あぁ私語はまずいんだよな。俺の携帯番号」  入金伝票に書いて渡された。 「いつでも電話して。実は俺も転勤で静岡に住んでるんだ」  彩花は心臓がバクバクするほど驚いていた。  まさかこんな所で会うなんて……。川村 雅也先輩に……。  その日から一週間が過ぎても電話する事も出来ずにいた。  四年前、彩花は使っていた携帯も解約されメモリも全て削除されていた。  今の携帯には家族や地元の親戚、職場の上司や同僚の番号しか入っていない。
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