二人の週末

1/1
前へ
/107ページ
次へ

二人の週末

 そして週末。土曜日の十時に龍哉が迎えに来る。  少しドライブして美味しいと評判のイタリアンの店で昼食。  友人や同じ秘書課の女の子たちから聞いてはいたけれど、会社帰りに寄るには少し遠いし交通の便が少々悪い。ドライブがてら行くにはちょうど良い距離だった。  お店はイタリアンカラーで彩られて居るだけで元気になれそう。パスタとピザを注文して本場の味に大満足して店を出た。 「さて、次はどこに行きたい?」 「この前行ったスーパー。龍哉のマンションの近くの」 「えっ?  今夜も何か作ってくれるの?」 「私の手料理は気に入らない?」 「すごく美味かったよ。この前の鶏なべ」 「今夜はカレーにしようと思うんだけど」 「でも、ご飯は炊けないよ」 「あのスーパーに美味しそうなパン屋さんがあったの。ナンも売ってたから今夜はナンカレー。どう?」 「いいよ。綾の作ってくれる物なら何でも美味しい」 「ナンでも美味しい? それギャグのつもり?」 「違うよ。この程度では笑いは取れないだろうな」 龍哉は笑ってる。  スーパーに着いてカートを押すのは龍哉の役目。カレーの材料やフルーツを買って、もちろんパン屋さんでナンも買った。龍哉のマンションに着いて 「キッチン借りて良い?」 「もう作るの?」 不思議そうな龍哉の顔。 「カレーは早めに作って少し置いた方が美味しいから先に作るね」 「うん。分かった」  私は持って来たエプロンをバッグから出し、身に着けてキッチンに立つ。 「エプロン良く似合うよ」 「そう? ありがとう」 笑顔で答えた。 「何か、イケナイ気分になりそうだ……」 「どういう気分?」 「綾の邪魔をしたい気分……」 後ろから抱きしめられた。 「ダメよ……」 「そう言われると余計に邪魔したい……」 頬にキスされた。 「綾……」 龍哉の声が耳元で心地好く響いた。少しずつ龍哉の唇が私の頬を移動して唇を塞がれた。キスされたまま私の体は、ゆっくり振り向かされる。  龍哉の腕の中に強く抱きしめられて身動きが取れなくなっていた。  龍哉の甘いキスは私の体から力を奪っていく。強く抱きしめられていないと立っていられない。背中と腰に回された龍哉の腕の熱さが洋服越しに伝わって来る。唇が離れて、おでこをくっ付け合って見詰められる。  私は俯いたままで龍哉を真っ直ぐ見詰め返すことなんて出来ない。 「綾……。エプロンなんて反則だよ」 「だって……」 顔を上げて言った。 「カレーとかミートソースとか作る時に限って汚すんだもん。お洗濯しても綺麗に取れないんだから困るのよ」 「俺には挑発されてるとしか思えないよ」 「変なAVとか見過ぎじゃないの? 童顔の可愛い女の子が裸にエプロンとかいうの……」 「見たことあるの?」 龍哉は笑いながら聞いた。 「ある訳ないでしょう。メイドカフェみたいなのが好みなの?」 「俺は有能な秘書がスーツを脱いで普通のエプロン姿っていうのが良いな」 「えっ?」 「だから今、非常に理想的な状況にあるんだよ。すごくソソラレルんだけど」 おでこにキスされる。  「これ以上邪魔すると美味しいナンカレーを食べ損なうからな。仕方ない。解放してあげるよ。何か手伝う事ある?」 「ううん、大丈夫。せっかくのお休みなんだから、ゆっくりしてて」 「じゃあ、たまったDVDでも見るかな。AVじゃないからな」 「もう。そういうのは一人の時に見てください」 「見ても良いの?」 「見たい物は見ればいいでしょ」 何で私に聞くのよ……。  笑いながら龍哉はソファーに座ってドラマか何かを見始めた。    出しっ放しの材料をスーパーの袋から出す。野菜を刻んで、お肉を入れて炒めて煮込む。小さなお鍋で二人分のカレーが出来た。後は食べる時に温めれば良い。  エプロンを外して龍哉の隣に座る。 「カレー出来たの?」 「うん。美味しいと良いけど」 「綾が俺のために作ってくれる物は美味いに決まってるよ」 「その言葉、後で撤回しないでよ」
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加