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二人の週末
そして週末。土曜日の十時に龍哉が迎えに来る。
少しドライブして美味しいと評判のイタリアンの店で昼食。
友人や同じ秘書課の女の子たちから聞いてはいたけれど、会社帰りに寄るには少し遠いし交通の便が少々悪い。ドライブがてら行くにはちょうど良い距離だった。
お店はイタリアンカラーで彩られて居るだけで元気になれそう。パスタとピザを注文して本場の味に大満足して店を出た。
「さて、次はどこに行きたい?」
「この前行ったスーパー。龍哉のマンションの近くの」
「えっ? 今夜も何か作ってくれるの?」
「私の手料理は気に入らない?」
「すごく美味かったよ。この前の鶏なべ」
「今夜はカレーにしようと思うんだけど」
「でも、ご飯は炊けないよ」
「あのスーパーに美味しそうなパン屋さんがあったの。ナンも売ってたから今夜はナンカレー。どう?」
「いいよ。綾の作ってくれる物なら何でも美味しい」
「ナンでも美味しい? それギャグのつもり?」
「違うよ。この程度では笑いは取れないだろうな」
龍哉は笑ってる。
スーパーに着いてカートを押すのは龍哉の役目。カレーの材料やフルーツを買って、もちろんパン屋さんでナンも買った。龍哉のマンションに着いて
「キッチン借りて良い?」
「もう作るの?」
不思議そうな龍哉の顔。
「カレーは早めに作って少し置いた方が美味しいから先に作るね」
「うん。分かった」
私は持って来たエプロンをバッグから出し、身に着けてキッチンに立つ。
「エプロン良く似合うよ」
「そう? ありがとう」
笑顔で答えた。
「何か、イケナイ気分になりそうだ……」
「どういう気分?」
「綾の邪魔をしたい気分……」
後ろから抱きしめられた。
「ダメよ……」
「そう言われると余計に邪魔したい……」
頬にキスされた。
「綾……」
龍哉の声が耳元で心地好く響いた。少しずつ龍哉の唇が私の頬を移動して唇を塞がれた。キスされたまま私の体は、ゆっくり振り向かされる。
龍哉の腕の中に強く抱きしめられて身動きが取れなくなっていた。
龍哉の甘いキスは私の体から力を奪っていく。強く抱きしめられていないと立っていられない。背中と腰に回された龍哉の腕の熱さが洋服越しに伝わって来る。唇が離れて、おでこをくっ付け合って見詰められる。
私は俯いたままで龍哉を真っ直ぐ見詰め返すことなんて出来ない。
「綾……。エプロンなんて反則だよ」
「だって……」
顔を上げて言った。
「カレーとかミートソースとか作る時に限って汚すんだもん。お洗濯しても綺麗に取れないんだから困るのよ」
「俺には挑発されてるとしか思えないよ」
「変なAVとか見過ぎじゃないの? 童顔の可愛い女の子が裸にエプロンとかいうの……」
「見たことあるの?」
龍哉は笑いながら聞いた。
「ある訳ないでしょう。メイドカフェみたいなのが好みなの?」
「俺は有能な秘書がスーツを脱いで普通のエプロン姿っていうのが良いな」
「えっ?」
「だから今、非常に理想的な状況にあるんだよ。すごくソソラレルんだけど」
おでこにキスされる。
「これ以上邪魔すると美味しいナンカレーを食べ損なうからな。仕方ない。解放してあげるよ。何か手伝う事ある?」
「ううん、大丈夫。せっかくのお休みなんだから、ゆっくりしてて」
「じゃあ、たまったDVDでも見るかな。AVじゃないからな」
「もう。そういうのは一人の時に見てください」
「見ても良いの?」
「見たい物は見ればいいでしょ」
何で私に聞くのよ……。
笑いながら龍哉はソファーに座ってドラマか何かを見始めた。
出しっ放しの材料をスーパーの袋から出す。野菜を刻んで、お肉を入れて炒めて煮込む。小さなお鍋で二人分のカレーが出来た。後は食べる時に温めれば良い。
エプロンを外して龍哉の隣に座る。
「カレー出来たの?」
「うん。美味しいと良いけど」
「綾が俺のために作ってくれる物は美味いに決まってるよ」
「その言葉、後で撤回しないでよ」
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