先輩

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先輩

 それからまた一週間が過ぎて、思い切って電話を掛けた。 「やっと掛けてくれたんだ。待ってたよ」 と言われ、金曜日の夜、一緒に食事をしようということになった。    家族には会社の子たちとの飲み会だと話しておいた。余計な心配は掛けたくない。  戻ってしばらくは従兄と出掛けるのさえいちいち 「誰と出掛けるの? どこへ行くの? 何しに行くの?」  まるで尋問のように聞いて来た両親も、この頃になってようやく信用してくれているのか細かく聴かなくなっていた。  それでも先輩と食事に行くのは、ちょっとだけ気が引けていた。両親を騙して出掛ける後ろめたさも感じていた。  先輩とは、たった一度だけとは言え、体の関係もあったのだから……。  待ち合わせたのは駅裏の喫茶店。静かな落ち着ける店だった。彩花が店に入った時には先輩は既に待って居た。 「すみません。遅くなって」 約束したもののギリギリまで迷っていた。 「とりあえず何か飲む? それともホテルに直行?」 「えっ? 私は、そんなつもりで来た訳じゃありません」 「冗談だよ」 先輩は笑っていた。 「でも、せっかく会えたんだから自慢の胸に甘えたいなぁ」 「私、帰ります」 席を立つと 「本当に、あんな生活は止めたんだね。ごめん。君を試した。座って」  私は渋々座った。もう思い出したくも無い自分の過去の過ちは……。 「今は誰とも付き合ってないのか?」 「実家に帰ってからは誰とも……」 「四年前に帰ったって言ってたよな。少しは反省したのか?」 「今、考えたら、あの頃の私は、まるで自分じゃないみたいで……」 「君が、あんな生活をしてたのは、早崎 綾のせいか?」 「どうして?」 「君が彼女に張り合っていたのは誰にでも分かったけど」 「綾は先輩のことが好きだったから……」 「はっ? 俺?」 目を真ん丸に見開いて驚いた様子。 「知らなかったんですか?」 「まったく気付かなかった」 「先輩、かなり鈍感なんですね。呆れます」 「早崎 綾は、男なら誰でも憧れるマドンナみたいなもんだ。本気で彼女に言い寄る男は、いなかっただろう。ハードル高過ぎるよ」 「じゃあ、先輩は綾のことは……」 「高嶺の花だな。本気でどうこうとは思わなかったよ。俺は四国の漁師の息子だ。どう考えても釣り合わないだろう」
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