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軽蔑
「大声出すわよ」
「そうしたければ構わないよ。それでも仕方の無い事を俺は君にしたんだからな」
そのまま手を握られて地下の通路を通って駅の北側に出た。会社の反対側だから会社帰りに寄る人も、あまりいないはずだ。落ち着いた喫茶店に連れて行かれて奥の目立たない席に座らされた。
「何にする?」
と聞かれ黙っていたら
「コーヒーを二つ」
勝手に注文された。
「昨夜は悪かった」
「心にも無いこと言わないで」
「……その。……大丈夫か? 体……」
大丈夫な訳ない。思い出したくなくても蘇る嫌悪感に死にたくなる。
「ワインに何か入れたの? グラスに二杯しか飲んでない。あのくらいで正体失くすほど弱くないつもりよ」
「済まない。俺が悪かった」
「汚い手を使って女を自由にしてるのね。最低」
「そう言われても仕方ない。俺はそういう男だからな」
「あの根も葉もない噂は誰から聞いたの?」
「営業の……。同期なんじゃないのか? 春野」
「やっぱり……」
彩花なんだ。何の恨みがあるのよ。許せない。
「彩花とも関係あるんだ。思っていたよりも、ずっと軽い男なのね」
「春野には手は出してない。何も知らないような可愛い顔して、あいつかなり遊んでいるんだろう? 見てれば分かるよ」
「へぇ分かるの? 何が分かるの? 私のこと何だと思ってたのよ」
「昨夜、あんなお洒落なワインバーに一人で来るなんて、やっぱり噂通りの遊んでる女なんだって思った」
「あのバーは二十歳になった時、お祝いに父に連れて行って貰ったの。オーナーも父の知り合いだから一人でも入れた。それだけのことよ」
「そうか……。済まない。何から何まで誤解してたんだな」
「謝って貰ったって何も変わらない」
「そうだな。でもこれだけは信じてくれないか? 去年秘書課に君が入って来て、ずっと気になってた。タイプだったから……。君に近付きたいと思ったのは確かだ。あんな噂を聞いて、それにあのワインバー。俺みたいな奴でもチャンスがあるんだって思った」
「そう。話はそれだけ? 帰るわ。二度と私の前に現れないで」
そのまま席を立って店を出た。顔も見たくない最低な男。
でも……。彩花はもっと許せない。
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