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甘い考え
振り向くと誰? どこかで会ったような……。
「彩花さんでしょう? 覚えてない? 東京で合コンしたのにな」
「あぁ、うん」
「旅行?」
「えぇ、友達と二人で」
「友達は?」
「今、この近くにいる友人に会いに行ってる」
「僕も旅行なんだ。一人だけどね。久しぶりだな。お昼は? 済ませた?」
「ううん、まだ」
「じゃあ、一緒にどう?」
「うん。いいけど」
いいわよね。食事くらい。
ホテルの中のお寿司屋さんの暖簾をくぐる。カウンターで注文して握って貰った。
「美味しい」
「うん、そうだね。やっぱり海の幸は最高だよ」
笑顔が素敵だった。
少し食べて、もうお腹いっぱい。さっき朝食済ませたばかり……。
「少食なんだな、彩花さんは。そういう所も可愛いけどね」
雅也とは全然タイプが違う。都会っ子だけあって上品だななんて思っていた。
「ごちそうさま」
「どういたしまして。友達って何時に帰って来るの?」
「う~ん。三時くらいには戻って来るって言ってたけど」
「それまで二時間あるね。僕に付き合わない? ドライブにでも、どう?」
「三時までに戻れるのね?」
「勿論だよ」
「うん。付き合う」
「あぁ、車のキー、部屋に忘れて来たみたいだ。ちょっと付き合って」
彼の部屋に一緒にキーを取りに行った。彼は部屋の鍵を開けて……。
「ちょっと待ってて」
そう言いながら腕を掴まれ部屋に入れられた。
「僕のこと本当に覚えてないの?」
ドアに押し当てられ腕で囲まれた。
「合コンの後、熱い夜を過ごしただろう?」
「えっ?」
そうだ。思い出した。医者だ。親の病院を継ぐと言っていた。
「ここで昼下がりの情事っていうのでもいいけど」
「駄目よ」
そんなこと……。
いきなりキスされた。
雅也みたいに激しいだけじゃない。優しくてスマートなキス……。体が蕩けそうな……。
そうだ。キスで思い出した。
産婦人科医だった。名前は克彦。ソフトで上品で……。さすが産婦人科医だと堪能させて貰った。
合コンの後、朝まで抱き合った甘美な時間を思い出した。
「一緒にシャワー浴びよう。いいだろ?」
三時まで二時間楽しんで……。それから美容院に行けば五時には何とか支度も出来る。彩花は頭の中で素早く計算した。
ドアの前で全て脱がされた。時おり人の話し声が聞こえて通り過ぎる。それがまた刺激的だった。
昼下がりの情事。結婚前の最後のアバンチュール。最後に相応しい男。そう思っていた。
彼も全て脱いで……。意外と逞しい体に嫌でも期待が高まる。手をつないでバスルームに入った。お互いの体をボディソープを付けた手で撫でるように洗い合った。それだけで声が出てしまう。
「彩花さんは感じやすいんだよね。特に、このGカップの胸が……。もう駄目みたいだね」
バスルームを出て、転がるようにベッドに入った。
「やっぱり彩花さんの胸は柔らかくて堪らないよ。他にもGカップの子がいたけど、硬くてボールみたいだった」
彩花は欲望に忠実だった。結婚したら雅也の良い奥さんになる。これで最後。そう自分に言い聞かせながら克彦との快楽に溺れていった……。
「僕を忘れられなくなった?」
「凄く良くてオカシクなりそうだった……」
「本当に、これで終わりなの?」
「えぇ、ありがとう。素敵だった。克彦の事は忘れない」
「そうか。じゃあ、仕方ないな」
克彦は笑っていた。
三時が近付いていた。彩花はシャワーを浴びて克彦の部屋を出た。
そして何も無かったように美容院へと急いだ。ヘアもメイクも完璧。部屋に戻ってドレスも身に着けた。自分でも惚れ惚れする程、綺麗だった。
後は雅也を待つだけ。
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