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天使の微笑み
五時少し前に雅也は戻って来た。
「彩花、綺麗だ。エステで念入りに磨いて貰ったのか? 肌が輝いてるよ」
「そう、ありがとう」
克彦に愛されたから……。何よりも男が最高のエステ。
「じゃあ、そろそろ行こうか? お待たせしてはいけないからな」
「はい」
彩花は微笑んだ。まるで天使のような微笑み……。
会場に入ると彩花の可愛らしさは全ての人の目を惹いていた。
「雅也さん、おめでとう。素敵なお嬢さんね」
「本当に絵になるわね。お似合いよ」
そんな賛辞に雅也は笑顔で答えながら心から満足していた。
会場は彩花が思っていたよりも、ずっと広くてまるで披露宴会場。こんなにたくさん親族がいるのかと驚いていた。広過ぎて後ろの方の席は良く見えない。
彩花はコンタクトを入れ忘れていた事に気付いた。今朝、目が赤く充血していてコンタクトは入れずに目薬を点して目を休めていた。
近くは良く見えていたので、すっかり忘れていた。遠くがボンヤリして、はっきり見えない。
誰かが近付いて来る。背の高い……若い男性? その姿がはっきり見えた時、彩花の顔から血の気が引いた。
「雅兄、おめでとう」
「ありがとう。克彦、久しぶりだな」
「そちらのレディを紹介してよ」
「あぁ、彩花だ。彼は従兄弟の克彦。内科の医者だ」
「内科?」
思わず言葉が出た。
「産婦人科か何かだと思った? しかも親の病院を継ぐとかなんとか」
「あ、いえ……」
「合コンの時は、そう言った方が盛り上がるんだ。女の子も期待して簡単に、お持ち帰り出来るし」
「克彦、お前そんな事してるのか?」
「東京に居た頃だけだよ。都内の病院の御曹司って言ってたのは。お陰で良い思いをさせて貰ったけどね。ねぇ、彩花さん」
「……ごめんなさい。私、気分が……」
目眩がして倒れそうだった。
「どうした? 彩花。顔色が真っ青だよ」
「雅兄、彩花さん、立ってるのも無理そうだよ」
「克彦、診てやってくれないか?」
「いいよ。部屋はどこ?」
雅也は宿泊している部屋の鍵を克彦に渡した。
「雅兄、花嫁候補は緊張のあまり気分が悪くなったって説明しなよ。食事会は、そのまま先に始めて貰った方が良いと思うよ」
「分かった。彩花を頼む」
「あぁ、任せて」
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