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自分で蒔いた種
二人でエレベーターに乗ると彩花は
「お願い。雅也さんには黙ってて。お願いだから……」
目には涙が……。
「何を黙ってればいいの? 昼間の事? 昔の事?」
「両方……。きょう初めて会った事にしておいて」
「初めて会った僕の部屋で君が、あられもない姿で嬌声を上げた事は?」
「……。どうしたいの? 私をゆすってるつもり?」
「まさか。どうしても雅兄と結婚する気なの?」
「いけない?」
「黙ってたら僕に何かメリットがあるのかな?」
「……。私、雅也さんの良い奥さんになりたいの」
「奥さん? 止めなよ。君には似合わないよ。その体で稼げる仕事だってあるだろ」
「どういうこと?」
「そうだな。たとえば愛人? 金持ちのおじさんが可愛がってくれると思うよ」
「ふざけないで」
「ふざけてるのはどっちだよ。どうして簡単に誘いに乗るんだよ。まぁ僕は楽しませて貰ったから、偉そうには言えないけどね」
「…………」
「あぁ、次の雅兄の転勤先、岡山なんだって? ここからなら近くだよね」
「何が言いたいの?」
「これからも会ってくれる? きょうみたいに雅兄には内緒で」
「馬鹿な事、言わないで」
「冷たいね。さっきとは随分と違うみたいだけど。僕には逆らわない方がいいよ」
「…………」
部屋に入って、彩花はベッドの端に座った。顔色は悪いまま。体が震えている。
「大丈夫? 彩花さん。まぁ、診察は必要ないよね。僕、精神科医じゃないし」
「私がオカシイとでも言うの?」
「マトモなつもりでいる? だったら余計に診て貰った方が良いよ。カウンセラー紹介しようか? イケメンの精神科医の友人いるからさ」
「私は雅也と結婚するのよ。幸せになるのよ。邪魔しないでよ」
「君が幸せになろうが不幸になろうが自分で蒔いた種だろ? 僕は従兄弟として雅兄には幸せになって貰いたい」
「私と結婚したら雅也は幸せじゃないって言うの?」
「当たり前だろ。男と見境もなく簡単に寝るような女。最悪だよ。分かってるのか? 自分のしてる事が女として最低だって事」
「その最低な女と寝たのは誰よ?」克彦を睨み付ける。
「遊びだから。見た目と体さえ良ければ性格も頭の中身もカラッポで良い。その方が助かるよ。後腐れなくてさ。あんたみたいな女は重宝がられてるよ。僕は、あの後、仕事が忙しくなって合コンには行けなかったけど。医者のメンバーの合コンには毎回参加してたんだって? あんたと寝た医者をたくさん知ってる。Gカップは最高だって、みんな言ってたよ」
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