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十二月の日曜日
もうすぐクリスマスというある日曜日。綾は実家に居た。やっぱり母親の手料理は美味しい。いくらでも食べられる。
義姉は悪阻のせいか食欲はないようだ。
「お義姉さん少し痩せた?」
「まぁ、悪阻だからね。落ち着いたら食べられるようになるから心配ないわよ」
さすが兄と私の二人を産んで育てた母の言葉には説得力がある。
「ふぅん。そういうものなんだ」
私には縁のない事よね。そう思った。
お兄ちゃんは今から育児書を買い込んで勉強しているらしい。自分が産む訳でもないのに……。
きっとお産には立ち合うんだろうなと想像出来る。仲の良いのは羨ましいかな?
その日、午前中出掛けていた父が帰って来て私に言った。
「綾、お見合いしてみる気はないか? 次の日曜日はどうだ?」
「えっ? お見合い?」
しかも一週間後? クリスマスイブだよ。
お見合いは二度としない。もう懲り懲りだ。
「取引先の大きな家具店の息子さんだ。綾より二つ年上だったと思う」
「お見合いはいい。私、当分結婚する気ないし。失礼でしょ?」
「悪い話じゃないぞ。私も良く知っている真面目な好青年だ」
真面目な好青年と言われて、あいつとは正反対って事なんだと思った。なんでこんな時に、あいつなんかが出て来るのよ……。
この年末に、どうして、お見合いなんかしなくちゃいけないの? まぁ、クリスマスイブだからって何一つ予定もないけれど……。
結局、父親に押し切られて次の日曜日、お見合いする事になった。
仕方ない。今回だけと約束をして……。いつ反故にされるのか分からない約束だけど。
しかも日曜休みではない家具店だから父と私が商談で、お邪魔する設定。いつから私は父の秘書になったのよ。
「お見合いの席を設けるより、普段のまま自然に会った方が断り易いだろう」
何もかも父の思うつぼ。
「親は、いつも子供の幸せを願っているものだ」
と言う父に反論出来ない。
でも親の願う幸せと子供の想い描く幸せは必ずしも一致するとは限らない。
そして一週間後……。
秘書役で付いて行く訳だから、いつもの通勤着のスーツを着て。特別、お洒落なんてしないわよと、せめてもの私の抵抗。
連れて行かれたのはアンティークな高級家具から輸入家具、実用的な物までセンス良く並べられた大きな自社ビルの店舗だった。
店舗の上の四階の事務フロアの社長室にエレベーターで案内してくれたピンクの制服も良く似合う可愛い女性店員さん。とても丁寧に応対してくれた。でもなんとなく彼女の私を見る目が気になった……。
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