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二度目のお見合い
通された社長室には、お見合い相手のご両親である社長夫妻とご本人もいらした。
なんだか御三方とも普段のまま自然に……じゃないだろう?
スーツ姿のお父様とご本人はともかく、お母様は訪問着をお召しになって。これじゃあホテルや料亭でのお見合いと何ら変わらない。スーツとはいえ通勤着で来たのをちょっとだけ後悔した。
「娘の綾です。きょうは私の秘書をして貰っています」
「初めまして。いつも父がお世話になっております」
私も挨拶した。
「噂通りの素敵なお嬢さんですね」と社長は笑顔満面。
「あ、いえ」
いったいどんな噂をしていたのやら……。
「お兄様が自慢されるだけありますね。本当にお綺麗なお嬢さん」
訪問着のお母様は優しく微笑まれた。お母様こそお綺麗。まるでお見合いの主役。
「そうそう息子の北川隼人です」
「初めまして。家の方こそお父様には、いつもお世話になっております」
笑顔も爽やかな……。営業スマイル? 韓国ドラマに良く出て来る人気俳優のナントカさんに似てるかな? 名前は思い出せないけど……。
背格好は、お兄ちゃんに似てる気がする。背が高くて適度に逞しい。スーツの着こなしも素敵で上品な雰囲気。ご両親に愛情深く大切に育てられ純粋培養されたお坊ちゃんって感じ。
社長室の応接セットに腰掛けて社長と父は少しだけ仕事の話。
その後は、ご両親様の息子自慢。そして学生時代はラグビーをしていたと。
「兄とは、その頃から?」
「いえ、とんでもない。僕なんか一年生で大学も違いましたけど、お兄様は憧れの人でした。父の会社に入って取引先の息子さんだと知って嬉しかったです。今では、とても仲良くしていただいてます。たまに飲みに行ったり」
「えっ、そうなんですか」
お兄ちゃん何も言ってなかった。もしかして、このお見合いは、お兄ちゃんの策略?
そういえば、あの時、ラグビー部のメンバーを紹介するって言ってた。大学は違うけどラグビー繋がりだし……。
一時間ほど和気藹々と話をして、お母様に
「綾さんをお茶にでもお誘いして少し出掛けていらっしゃい」
と言われ、隼人さんの車に乗って出掛ける事になった。車は派手過ぎず大き過ぎないブルーのドイツ車。運転しながら
「きょうは、ご迷惑じゃなかったですか?」
と爽やかな笑顔で聞かれ
「いいえ。予定もありませんでしたから」
と答えた。
「クリスマスイブに僕と一緒に居て誰かに叱られませんか?」
「そんな人が居たら今ここに居ません」
お兄ちゃんの友人。仕事繋がりではあるけれど、なんだかそれだけで安心出来た。
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