ダージリンの香り

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ダージリンの香り

 なんだか胸がドキドキしていた。こんなに真正面から申し込まれるなんて中学高校以来だ。  大学の頃は、ずっと先輩を見ていたせいか男性には縁がなかった。友達に言わせると 「綾は、近寄り難いオーラが全開なのよね。人気はあるのに申し込んでも無駄だろうって勝手に玉砕しちゃうのよ。一人くらい向こう見ずな奴が居れば面白いんだけどな」  なんて無責任な事を言われてたっけ。別に、お高く留まってるつもりなど全くなかったのに……。  きょう初めて会って、まだたった数時間だけれど、まるで昔からの知り合いのような懐かしさを感じている。隼人さんと一緒なら自然な私で居られるような気がしていた。  それは、なんとなくお兄ちゃんに似ていると思ってしまったからなのか。恋愛した経験が、ほとんどない私には良く分からなかった。  ダージリンティーの香りの喫茶店でクリスマスイブの明るい午後。隼人さんと向かい合って座って穏やかな時間が流れて行った。  接客も仕事柄慣れているからだろう。話し上手であり聞き上手でもある隼人さんの話してくれる学生時代の話や、ご家族の話。柔らかい口調と言葉遣いは聴いていて心地好いものだった。  女友達となら、いくらでも話は尽きないのだけれど、若い男性と話すのは少し苦手な私の話も楽しそうに聞いてくれる。夕方になり仕事に戻らなければならない隼人さんは 「そろそろ行きましょうか。もっと話していたいんですけど」 と店を出た。 「一人で帰れますから」 「いいえ。綾さんをちゃんとお送りしなければ母に叱られます」 と笑った。  実家まで送って貰って 「次は食事に、お誘いしても構いませんか?」 「はい」 「ではまた連絡させて貰います。綾さんとお会い出来て、お話出来てとても楽しかったです」 「私の方こそ楽しかったです。ありがとうございました」 車を降りて走り去るのを見送った後、家に入ると 「おかえり」 とお兄ちゃん。 「ただいま。お兄ちゃん、私に何か隠し事してない?」 「あぁ、隼人の事か?」 と笑いながら答える。 「やっぱり。仕掛け人は、お兄ちゃんなんだ」 「そうじゃないよ。親父が隼人を気に入ってて」 「でも、お兄ちゃんは友達付き合いしてたんでしょ? 私、全然知らなかった」 「あいつは良い奴だよ。きっと綾を幸せにしてくれると思う」 いつになく真面目な顔で言われ、なんだか恥ずかしかった。
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