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大切な家族
リビングに入ると美味しそうな匂いがする。母とお義姉さんがキッチンで料理の真っ最中だった。
「ただいま」
と言うと二人とも笑顔で迎えてくれる。
「おかえりなさい」
元気そうな義姉の声。
「悪阻はどう?」
「きょうは随分と楽なのよ。さっきお母さんと買い物に行ったんだけどスーパーの中でも気分が良かったの。今まではね、お肉売り場とか、お魚売り場とか……。匂いが変わる度に駄目だったんだけど久しぶりに平気だった」
「へぇ、そういうものなの。悪阻って大変なんだ」
「綾、きょうはたくさんご馳走作るから、しっかり食べてってね」
と母。
「うん。そうする」
「ところで、どうだったの? お見合いは?」
「うん。良い人そうだったよ」
と答えた。
「隼人さんは素敵な人ですものね」と義姉。
「えっ? お義姉さんも知ってるの?」
「前に一度、家に見えた事があってね。仕事でだったんだけど、私も、お会いしたのよ」
「そうなの。知らなかった」
「今、玄関に居たでしょ?」
義姉が小声で言った。
「えっ? お兄ちゃんの事?」
「そろそろ綾が帰って来る頃だって落ち着かないの。窓から隼人さんの車が見えたって慌てて玄関に出迎えに行ったのよ」
と笑う。
そういえば大学入試の時も就職試験の時も帰ったらお兄ちゃんは玄関に居た。心配性なんだから。思い出したら、なんだか可笑しかった。でも嬉しかったけど。
その夜は美味しいお料理が並んで、ちょっとしたクリスマスパーティー。
どうしても私のお見合いの話になってしまう。父なんて、もう縁談が決まったかのように嬉しそうにしていた。
きょう初めて会ったばかりで、そんなに簡単に決められないのに……。
私の結婚を楽しみにしてくれる気持ちは分からなくはないのだけれど。
食事も済み少しゆっくりした後、マンションまで兄に送って貰った。
「綾、父さんたちも俺たちも、綾が幸せになる事を願ってるんだ。それが隼人との結婚なら、どんなに良いだろうと思ってる。でも、先の事は分からない。俺たちに遠慮は必要ないからな。綾の人生なんだから、綾自身が真剣に考えて決めるんだ。いいな?」
「うん。ありがとう。ちゃんと考える。その結果、みんなの期待を裏切ったら、ごめんね」
「綾が、どんな答えを出しても認めてくれるよ。誰も、お前を責めたりしない」
「うん」
お兄ちゃんの気持ちが凄く嬉しかった。
大切な家族のためにも私は幸せになろう、ならなきゃいけないって思えた。
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