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初デート
空を見上げると冬には珍しいくらい高い青空が広がっている。
一月だというのに春のような暖かい日。
短めのコートに厚地のスカートにロングブーツ。こんなに完全防備の必要なかったかなとふと思う。
まもなく隼人さんの車が私の前に停まった。車から降りてドアを開けてくれる。その仕草が自然で嫌味がないのが不思議なくらい。
それは私にだけじゃなくて、お母様やお婆様にも普通に出来る人なのだろう。
「待たせたかな?」
運転席に座って言った。
「いいえ。そんな事ないです。さっき来たところですから」
「そう。だったら良かった」
隼人さんの優しい笑顔。
車を出して気持ち良いくらい滑らかに走って行く。お正月、都内には車が少ないように感じる。
「この前、家に帰って、お兄さん何か言ってた?」
「いろいろと……」
「たとえば、僕の良くない噂とか?」
と隼人さんは笑っていた。
「とんでもない。とっても良い人だって褒めてましたよ」
「さぁ、それはどうかな?」
そう言いながら横顔に好感度100%と書いてある。思わず笑ったら
「綾さんの笑顔、僕は好きだな」
なんてさらっと言われた。なんだか恥ずかしくて正面を向いて少し俯いたら
「恥ずかしそうにしてる顔は、もっと好きかも」
赤信号で停まったら隼人さんがこっちを見てるのが分かる。どうしたらいいのか分からない。
すぐに信号が変わって隼人さんの視線からは逃れられた。
どうしたんだろう。胸がキューンとしてドキドキしてる。隼人さんに鼓動が聞こえそうなくらい……。
意識し始めたら、余計に鼓動が早くなったように感じる。何か話さなきゃと思ったけれど何も言葉が出て来ない。
「綾さんは今まで結婚を意識した人は、いなかったんですか?」
「友人たちは、もう半分くらい結婚しているんですけど……。焦るとか早く私も結婚したいって考えた事、正直ないんです。私、高校生のままで精神年齢が止まっているんです。たぶん……」
「じゃあ僕は、きょう女子高生とデートしているんですね」
「あぁ、いえ。年齢だけは女子高生プラス十歳ですから」
「そういえば来月、誕生日ですよね」
「はい。大人に成りきれてないのに誕生日だけは来るんです」
「今年の誕生日は、僕と過ごすっていうのはどうですか? ちょっと図々しいかな。まだ会ったばかりなのに」
隼人さんは、これ以上ないくらい優しい笑顔で私に言った。
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