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「綾、何かあったのか?」 「えっ? どうして?」 「この頃、家にも顔を出さないし、母さん達、心配してたぞ」 「何もないよ。仕事が忙しくて……。お休みの日、気が付いたら、もうお昼過ぎてたりすると出掛けるのも面倒で」 「電話すれば迎えに来るのに。そしたらパジャマのままで来られるだろ」 「花も恥らう乙女にパジャマで家に帰れって?」 「それは冗談だけど。別にお洒落して来なくても普段着のままでいいよ」 「うん、そうだね。心配しなくていいからって伝えて」 「分かった。俺は付き合ってる男でもいるのかと思ってた」 「そんな人、いないよ」 「おかしいな。綾は昔からもてたはずだけど……。俺、ラグビーより交通整理で忙しかったんだからな」 「交通整理?」 「あの頃、よくラグビー部の奴等が家に来てただろ? まだ中学生の綾と付き合いたいなんて奴が居て……。綾はまだ子供だからって断るのが大変だったんだぞ。今からでも紹介しようか? まだ独身の奴たくさん居るから」 「いいよ」 「どんな奴が好みなんだ?」 「お兄ちゃんみたいな人」 「えっ? 俺?」 「居ないでしょ? だからいい」 「こら。兄貴をからかうな。本気にするとこだった。危ない危ない」 「冗談に決まってるでしょ。本気にしたの? 意外と純情なんだ」 「ば~か」 お兄ちゃんは笑ってたけど……。 「とにかく、たまには家に顔を出せよ。それだけで親孝行なんだから」 「うん。分かった。お義姉さん元気?」 「あぁ、元気だ。あいつも綾に会いたがってた」 「うん。お義姉さんに大好きだからって伝えといて」 「何だ、それ」 「いいの。何でも」  私は本当にお義姉さんが大好きだった。綺麗で優しくて……。お兄ちゃんに、お似合いの素敵な女性だと思ってる。  私のお兄ちゃんへの気持ちは恋愛じゃなくて、やっぱり兄妹愛だから。  二人でワインを飲みながら楽しく話しているところをまさか見られていたなんて……。      *  彼女のあんな穏やかな柔らかい表情は、会社でも見た事がない。それほど信頼出来る男なのだろう。彼女を見詰める目に優しさが溢れている。 「恋人、居たのか……」  あんな酷い事をしてしまって後悔している男が……。
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