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一パック五百円が相場のカードパックを六個買い求めた。田代に返すはずのお金で。
彼に借りた金額は三千円ではないが、せめて少しは返しておきたいと、十分の一だけ持参しようとした。しかし誘惑には勝てない。カードを買うために借りたお金で、カードを買ってしまった。
田代から《いつになったら来る?》というメッセージが届いていたが、吊革に掴まりながら、〈ちょっと風邪を引いてしまって……また今度にしていい?〉と返した。もちろん、なんの返信もなかった。そろそろ縁を切られるかもしれない。
テープ留めされたパックを机に置くと、シャワーを浴びる支度をした。一度身体を綺麗にすると、お目当てのカードが当たる確率が高いというジンクスがあるのだ。
しかし残念ながら、今回は、なんの成果を得ることもできなかった。
大手カードショップの「買い取り価格」一覧を見てみても、数百円が関の山なレアカードしか入っていなかったし、デッキに組みこむことができるものも、ひとつもない。
素直に、田代にお金を返せばよかった。田代に返すために大城から借りた三千円を、ムダに使ってしまったという後悔が押し寄せてくる。
カードを集めてケースにしまおうとしたとき、一枚のカードがこぼれ落ちた。思わず舌打ちをしてしまう。しかしそれを手に取ってみて驚愕した。
見た事のない、両面真っ黒なカードだったのだ。レアカードにばかり注目していたから、気付かなかったのかもしれない。
焦げているという感じではない。まるで、ブラックホールのような神秘的な感じのする黒だ。地球にあるものとは思えない黒だ。
そのカードを手に取ったまま呆然としていると、突然、こんな声が後ろから聞こえてきた。
「ねえ、一億円でそのカードを譲ってくれない?」
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