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 人間の姿をした宇宙人の声は美しかった。 「あなたが手にしたのは《エラーパック》というものなの」 「知ってます」 「知ってる? そんなはずがないわ。《エラーパック》は、わたしたちの惑星の創世神話に登場するものだもの……」 「ごくたまにありますよ。違うシリーズのカードが入っていたりとか、封入されている枚数が違ったりとか」 「……それは知らないけど、とにかく一億円でそれを譲ってほしいの」  彼女が宇宙人であり、べつの惑星の人物だとして、そこでも〈円〉が使用されているのだろうか。だとしたら、交換しても構わない。しかしこの地球で使えない〈一億円〉というものであるのならば、不要だ。 「一億円というのは、この地球の……とくにこの国で使われる〈一億円〉と同じものという理解でいいんですか?」 「そういう理解でもかまわないけれど……」 「けれど?」 「圧縮してあるの」 「圧縮とは?」  彼女が見せてきたのは、間違いなく一万円札だった。詐欺師で不法侵入者だったのか。なぜか、しれっと状況を受け入れてしまっていたけど。 「これは、一万円というもので、一億円ではないのですが……」  でもよく考えてみれば、一万円というのも高額じゃないか。一億円という言葉の前にかすんでしまっていた。こんなものが一万円になるのなら構わない。 「よく分からないけど、買ってもらえるならいいですよ。はい、これ」  さっさと一万円札をもらいたかったのだが、彼女は出し抜けにこんなことを言いだした。 「せっかくだから、わたしたちの惑星のことを話してあげましょう」  彼女は有無を言わさず、おもむろに話しはじめた。
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