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呼吸を合わせて出る音は
「暑っ、こんな時間に外歩くとか狂気じみてへんか?」
友樹は駅から目的地に向かって歩き始めるなり、言った。泰生はしゃあないやん、と兄を宥める。
「土曜日にサマーコンサートするんやったら、まあ大抵昼間や」
元先輩のクラリネッティスト・戸山百花は、甘い菓子の他に演奏会のチケットを2枚、泰生にくれた。企業セミナーが入ってしまい、行けなくなったという。岡本もチケットを持っていたが、喫茶店のアルバイトがあるので後半からしか行けないらしかった。
京都府の南西の隅に位置するこの市には、国宝に指定された有名な神社がある。最寄り駅から徒歩10分のホールが、今日のコンサートの会場だ。使用料があまり高くなく、結構音がいいので、学生の音楽団体に人気のホールである。
泰生はここを訪れるのは初めてではなかった。他の大学の吹奏楽部の演奏会に、今まで2回来たことがある。他大学の同業者と何かと交流があるのは、吹奏楽部も管弦楽団も同じらしく、泰生が譲ってもらったチケットは招待券だった。友樹の母校の管弦楽団なので誘ってみると、彼女と別れて暇なのと、学生時代のゼミの友達に団員がいたとかで、ちょっとその気になったらしい。
道なりに進み緩いカーブを曲がると、ホールの建物が見え隠れしてきた。この道を歩く人は、ほぼ皆がホールを目指しているので、迷うことは無い。
「クラシックガチで聴くのって何年振りやろ、寝たらごめん」
友樹は言ったが、泰生も管弦楽を生で聴くのは、高校の音楽鑑賞以来だ。当然その時は、途中で記憶が無くなった。
「俺もぶっちゃけ寝えへん自信無いわ、吹奏楽でも寝るからな」
「おまえ何で音楽してんねん?」
友樹の突っ込みに、さあ、と答えるしかない泰生である。要するに、知らない曲は眠いのだ。
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