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「淡竹の常連さんなんやけど、何で知り合い?」
「えっ、そうなんか……こないだスーパーの豆乳売り場で遭遇した」
「豆乳?」
列は進み、岡本がドーナツ追加と言うので、彼の選んだチョコレートのそれを取る。石田と呼ばれた男性は、先に会計を済ませ、2つの箱を両手に持っていた。
「夕方から子どもの集いなんですよ、岡本くんもまたお友達連れて来てください」
まったりした口調で、石田は岡本と泰生の顔を順番に見ながら言う。お疲れさまです、と岡本はよく知る相手のように明るく応じた。
アイスコーヒーだときっと淡竹ほど美味しくはないだろうから、アイスミルクティーを頼み、岡本の待つテーブルにトレイを運んだ。
「石田さん? 教会の牧師やで、この上のお宮さんの近くに教会あんねん」
岡本の言う「お宮さん」は、おそらく京都市伏見区内では、千本鳥居のあるお稲荷さんの次点くらい有名だと思うが、その神社の近くにキリスト教の教会があるとは。さらにもう少し先に行くと、宮内庁が管轄する御陵も存在する。いろいろな宗教施設が集まる山の手というのは割にどこにでも存在するが、この周辺もそういった聖域、清かな土地なのだろう。
岡本はアイスのカフェオレを飲んでいた。
「豆乳って何なん?」
「俺の兄貴が200ミリリットル入った豆乳のファンやねん、あのスーパーめっちゃ種類置いてて、兄貴に何か買って帰ったろと思ったら、売り場の前にあのひと……石田さん? がおって、チョコミントの豆乳を勧めてくれはったんやけど、兄貴に半分飲まれたわ」
泰生の説明を黙って聞いていた岡本は、くすっと笑った。
「何か、今まで聞いた長谷川の言葉の中で一番情報量が多かった」
馬鹿にされたわけでは無さそうだったが、そう言われるとちょっと返事に困った。あ、そう? とぼそっと応えておく。
「あの先生とこの教会、和風建築でおもろいねん……別に改宗せえとか言われへんから、寺田屋もいいけど教会も見に行ったって」
清かな土地の清かな建物に居る人か。岡田の言葉に、石田と教会への興味が少し湧いた。
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