窓越しの憂鬱

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窓越しの憂鬱

 いよいよ大学の期末試験が始まった。これから8日間、時間割はテスト用の特別なものとなり、開始時間や教室を間違えるとゲームオーバーである。とはいえ、1、2回生の時に比べると専門科目が増えて、塚﨑ゼミのようにレポートの提出だけを要求されたり、一部の教科で最終授業日にテストを済ませたりしたため、そんなに悲壮感は無かった。  同じ3回生の岡本も、まっとうに単位を取っているならば、この期間中はちょこっとバイトに行ったり楽器を弾いたりするのかもしれない。そう思うと、連絡を取ってみようかという気持ちになるが、試験期間中は控えておこうと思い直した。  朝から2つの語学の試験を終えた泰生は、とっとと帰途に着いた。大阪方面行きの電車のホームに降りると、ちょうど京都へ向かう電車が滑りこんできた。と思うと、大阪行きの電車もやってきて、普段静かなこの駅が、重なるアナウンスと、2台の電車のブレーキ音やドアの開閉音でちょっと賑やかになる。  泰生はよく冷えた車内の、横座りのシートに落ち着いた。そして窓越しに、向かいのホームに着いた電車から降りて来て、これから大学に行くべくとぼとぼと歩く学生たちをぼんやり眺めた。  後ろの車両から降りたのだろう、小柄な女子学生が1人遅れて階段に向かう。戸山百花に見えた。今日は就活スーツでなく、白いTシャツにブルーのジーンズというくだけた恰好だ。泰生の乗る電車が発車し、戸山の姿が窓の外ですうっと流れていく。リュックを背負った彼女が階段を昇りかけるところまで、追うことができた。
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