窓越しの憂鬱

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 ふと、自分と同じ立場である彼女にいろいろ話してしまえたら、と泰生は思う。3回生になって伏見キャンパスに移り、吹奏楽部を退部した戸山は、2年間一緒に練習してきた同期の部員たちから、慰留はもちろんされたに違いなかった。でも考えを翻さなかった一番大きな理由は、何だったのだろう。  もし井上旭陽とぎくしゃくしていなかったら、もう少し下京キャンパスまで行って、吹奏楽部で頑張れたかもしれないと、今になって泰生はたまに思う。4回生になれば就職活動が始まり、どっちにしろクラブどころではなくなるのだから。  実は旭陽と気まずくなってしもて、吹部辞めることにしたって側面も、あります。  もし戸山に、あるいは岡本にでもそう言えたならば、なぜだかよくわからないが、吹奏楽部に所属していた自分をリセットできそうな気がする。  管弦楽団の楽器庫にあったいい音が鳴るコントラバスは、たぶん泰生と相性が良い。あれをもっと弾いてみたいという思いは、寝かしているパン生地のように、泰生の中でちょっとずつ膨らんでいた。管弦楽はあまり知らないが、チェロと一緒に低音をばりばり弾く曲にチャレンジしてみたいし、4回生の三村が卒業するまであと半年と少しであっても、4人もいて賑やかかもしれないコントラバスパートを経験してみたい。  特急と接続する駅で降りると、外の空気は重くて暑く、如何にも祇園祭の頃らしい。京都方面行きの特急が到着し、殺人的な混雑も恐れずに祭りに向かう人たちが乗り込んで、混雑していた。それに対して大阪行きの特急は、時間が中途半端なせいか、空いていた。泰生は再び車内の冷房にほっとしつつ、進行方向に向いた椅子の窓際に腰を下ろした。
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