半年待っていた楽器

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 驚いたことに、学生会館には少なからぬ学生がうろうろしていた。試験期間中だというのに、みんなそんなに余裕があるのだろうか。3度目にこの建物にやってきた泰生は、単純に驚いた。  廊下の先の大きな多目的室を覗くと、幾つかのグループが飲み食いしたり話しこんだりしていた。泰生は岡本の姿を認め、ひとつ深呼吸してから扉を開ける。岡本がすぐに泰生に気づき、岡本の前に座ってこちらに背中を向けていたスーツ姿の男性も振り返る。 「あ、長谷川くん? はじめまして、三村です」  わざわざ立ち上がったスーツの男は、岡本よりも背が高かった。体格もがっちりしていて、楽器よりもスポーツが似合いそうだ。泰生もはじめまして、と言って頭を下げた。 「就活でお忙しいのに、何かすみません」 「いや、午前中にちょっと面接に行って、そのまま試験受けに来ただけやから気にせんとって」  戸山と会った時のように、岡本が自販機に向かう。微笑を浮かべる三村は、1学年だけ上なのに随分大人びて見えた。  泰生は先に、先週の「不祥事」を謝っておこうと思った。 「あの、勝手に練習場に入って楽器に触って申し訳ありませんでした」 「え? 岡本が誘ったんやろ?」 「そうなんですけど、やめとくべきやったなと思ってます」  三村は困惑する表情になった。 「長谷川くんは何も悪ないで、体験入部で楽器触るのも全然OKやし、岡本が誰の許可も取らんと勝手にやったのがあかんだけ」 「……そしたら何で僕は呼び出されたんでしょう」  岡本が戻ってきて、三村に缶コーヒー、泰生にはペットボトルの紅茶を手渡した。彼自身は緑茶を買っている。三村は早速タブを起こし、コーヒーをひと口飲む。 「こないだ試奏した楽器、大事にしたってほしいなと思って」  それも困った話で、これから弾くと泰生はまだ約束していない。ところが三村は、泰生がそう答える前に、話し出した。 「あの楽器、ええ音したやろ? あれ、俺の叔父が寄付した楽器やねん」 「え……そうなんですか?」
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