兄と夕涼み

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「吹部もそやけど、キャンパスも変わったから、軽く人生リセット感あるわ」  一番仲が良かった友人とも、おそらくこれで切れるだろうから。良く冷えたビールは、苦みが少し飛んで、まだ酒に慣れていない泰生にはちょうど飲みやすかった。 「どうせリセットするんやったら、何か他の……クラブはしんどいかもしれんし、サークルでも探したら?」  友樹の提案に、泰生はうーん、と首を捻る。 「言うてる間に就活とか始まるやん、どんだけ活動できる?」 「大学時代に友達作っとかへんかったら、社会に出てから寂しいで」  そう語る友樹は、大学で4年間、美術部に所属していた。中学高校と軟式野球をしていた兄は、泰生よりずっと運動神経も良くて、この性格なのでモテキャラなのだが(ちなみに卒業した大学も泰生の大学より偏差値が高い)、何故か大学では油絵にハマっていたのだった。美術部の同級生とは、今でもちょこちょこ会うようである。  半分ほど缶ビールを飲んでから、泰生は洗濯物を取りこみ始めた。ぱりぱりに乾いたバスタオルやジーンズ、色褪せないように裏返して干されたTシャツ。鼻を近づけると太陽の匂いがした。友樹は見ているだけなのだが、給料の幾らかを自宅に入れている身なので、泰生には文句は言えない。 「兄貴、今週末は彼女とメシ食ったりとかするん?」  深い意味も無く泰生は尋ねた。しかし、友樹の返事は想定外に悲劇的だった。 「ううん、もう俺とメシ食ってくれる女はおらんくなりました」 「あ、……そ」  泰生は男3人の2日分のパンツを抱えながら、ビールをぐっと飲み干す兄の姿を見つめた。すいと頬を撫でた風は、会話に似合わず心地良かった。
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