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涙を堪える泰生に、石田はあくまでも優しく話した。
「そんなに自分を責めんでええと思うで、お互いが冷静になるタイミングがずれるのはようあることやから」
石田は言ってくれるが、あまり慰めにならなかった。泰生は軽く鼻を啜る。
「大学で一番にできた友達やったのに……」
「そう井上くんに言うてあげられたらいいね、もしほんまに長谷川くんが井上くんと縁があるんやったら、関係を修復するチャンスは絶対来るから、焦らんと待ち」
「もし来んかったら?」
子どもみたいに泰生が尋ねると、石田は慈悲深い微笑を浮かべながら、ばっさり答えた。
「諦め」
正論なのだが、身も蓋もない。泰生は肩を落とした。石田がふっ、と笑う。
「あのな長谷川くん、人の関係って可笑しなもんでな、誰かを諦めたらそれを倍の密度で埋めてくれる誰かと出会うようになってんねん……それはその人自身がステップアップしてる証拠でもあって、人間関係が変わる時っていうんは、絶対に自分が良いように変わる時や」
そう言われると、そうやったらいいなと思えた。泰生は視線を落とし気味ではあったが、頷く。
「はい……いきなり来てこんな話して、すみませんでした」
「いえいえ、こういうことも私の仕事やし気にしぃな……長谷川くん、井上くんがセクシャル・マイノリティやから、このこと岡本くんにも誰にも話さへんかったんか?」
泰生は再度頷く。おかげで、かなりすっきりした。石田も力強く頷いた。
「長谷川くんのその気遣いにいつか井上くんも気づくし、そういうことができる長谷川くんには、これからもっとたくさんのいい出会いが待ってると思うで」
長椅子の台に置かれたグラスは、少し汗をかいていた。泰生は残りの茶を飲む。礼拝堂に漂う蚊取り線香の匂いは、あくまでも優しかった。
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