夏の自由研究:ベストな松脂とは

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「吹奏楽でコントラバスをお始めですか?」  割といい線突いてくるなと思ったが、自分が1回生と思われたのは意外だった。 「いえ、吹奏楽部で2年やってたんですけど、これから管弦楽団で弾く……ことになりそうで……今まで使ってたのがちっさくなってきて……」  別に店員に経歴を語る必要は無いと気づき、語尾が萎んでしまう。しかし店員は、そうですか、と明るく応じた。 「吹奏楽と管弦楽ではコントラバスに求められる音が違います、松脂も変えたほうがいいですよ」 「そうなんですか?」  思いがけない店員の言葉に、泰生は鞄の中を探る。 「今までこれ使ってたんですけど」  泰生が出した松脂と同じものは、棚にも並んでいた。店員は泰生の掌に乗る紫色のケースを見て、ああ、と笑顔になる。 「一番オーソドックスで初心者も使いやすい商品です、吹奏楽も管弦楽もいけますし、使い慣れてらっしゃるならこれでもいいと思います」 「松脂でそんなに音変わるんですか?」 「変わりますよ、特にコントラバスはクラシックとジャズで使い分けるかたもいらっしゃいます」  吹奏楽部では弦楽器はコントラバスしか無いため、情報弱者になりがちだ。泰生は店員の説明を聞きながら、自分がかなりぼんやりと楽器に接してきたことを痛感させられる。 「弦が太いから弓に引っかかりやすいように、基本的にチェロやヴァイオリンの松脂より柔らかいんです……そのせいかこだわる人も多いです、本当はいろいろ試して好みの感触を見つけられるといいんですけど」  泰生は数種類のコントラバス用松脂を見つめ、迷う。そして、考えたことをつい垂れ流してしまった。 「何か、松脂お試しアソートパックとかあったらええのに……」
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