クリームソーダは特別なストローで

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クリームソーダは特別なストローで

 試験期間をあと2日残して、泰生の前期試験は全て終了した。今日もまた、地球に蒸し焼きにされそうなくらい暑い。しかも試験が済んだのは、夏の1日で一番暑苦しい、15時少し前だった。  とはいえ何とも言えずすっきりした気持ちになったので、泰生は商店街のある駅で途中下車した。商店街の中にはもう祇園囃子は流れておらず、Summer Sale と書かれた横断幕が飾ってあった。天神祭が近いのだが、この辺りは京都なので、それは関係無いということらしい。  泰生は淡竹を目指して商店街を下る。暑過ぎて危険なレベルだからか、夏休みに入っているはずの子どもの姿はアーケードの中にあまり無いが、おもちゃ屋の店頭で浮き輪とビーチボールが揺れていた。定休日の店舗の前では、野菜や果物の露店が並ぶ。緑色のプラスチックの籠に、小ぶりの桃が盛られているのを見て、お盆が近いなと泰生は思う。  予想に反して、喫茶店は混雑していた。テーブルは全て塞がっているのに、店の中には店長1人きりだ。  泰生はカウンターに向かい、店長にこんにちは、とそっと声をかけた。店長はトーストを切る手を止めて、ああ、いらっしゃい、と笑顔になった。 「ごめんな、俺一人でばたついとって」  店長はトースターのタイマーを回してから、4つのグラスに氷を入れた。 「キムラさんが調子崩しとってな、こんなクッソ暑いのに混むと思わんやん……」  小声で言いながら、店長がポットからグラスにコーヒーを注ぐと、香ばしい匂いが広がった。キムラさんとは、この間岡本と一緒に働いていたベテランの女性らしい。  店長は手早く銀の盆にコーヒーの入ったグラスと、ガムシロップとコーヒーフレッシュが入った小さなピッチャーを置いて、カウンターから出ていった。戻るとすぐに泰生におひやと冷たいおしぼりを出し、こそっと言う。 「キムラさんコロナみたいなんやわ、流行ってきてるし長谷川くんも気ぃつけや」  あの女性の気の良さそうな笑顔を思い出し、泰生は気の毒に思った。兄の友樹の会社でも、父の会社でも、陽性判定が出て休んでいる人が出ているという嫌な話を昨夜聞いたばかりだった。  泰生ははい、と答えながら手を拭く。冷たくて気持ちいい。頷く店長がドリッパーに湯を落としていると、アイスコーヒーが運ばれた席から声がかかった。 「マスター、ストローおくれ」 「あっごめん、ちょい待ってや」
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