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ドリップを途中で止めるわけにはいかず、店長の声に焦りが混じる。彼の背後でトースターがちん、と音を立て、ワンオペのキッチンは大わらわだ。
泰生は自分の座る席の斜め前に、袋入りのストローが数本立っているのを見つけ、思わず声をかけた。
「ストロー持って行きます」
店長はえっ! と言ったが、ごめん、とすぐに翻った。泰生は立ち上がり、カウンターから手を伸ばした。
4人の老人は、袋に入ったストローを泰生が持ってきたのを見て、ごめんな、ありがと、と口々に言う。
「ごめん、ついでに水もろていい?」
「えっ? あっ、ちょっと待ってくださいね」
泰生が慌ててカウンターに戻ると、店長は焼き上がった厚いトーストにバターを塗っていた。
「店長、水やそうです」
「ごめん、頼まれていい?」
氷水の入ったピッチャーを指差されて、泰生はそれを取り上げた。水滴が底からぽたぽた落ちたので、傍にあった乾いたダスターで拭く。
老人たちのグラスに順番に水を注いでいると、にいちゃん新しいバイト? と訊かれた。
「いえ、客です……」
老人たちは軽くどよめく。
「そうなん? あっ、キムラさん休みやからか、気ぃつかへんでごめんなぁ」
泰生は今年の2月まで、京都駅の傍の飲食店街にあるチェーンカフェでアルバイトをしていたので、慣れた仕事だった。いえいえ、と返事しておく。
その時、奥のテーブルの3人の中年女性が席を立った。さすがに会計をするのは憚られるので、泰生は代わりにバタートーストを営業マンらしき男性のところに運んだ。
店長は顔の前で手を合わせ、ほんまごめん、と泰生に謝った。それを見ていた常連らしき老婦人たちが、バイト代出したげなあかんなぁ、と笑う。
それを聞いた店長が、探る目線を送ってきた。
「長谷川くん、もし暇やったら、5時に文哉来るまで手伝ってくれへんかな」
「えっ……」
暇なので構わないのだが、物の場所もわからないのに、逆に迷惑ではないのか。断らない泰生を見て、店長は食器棚の下のほうから、クリーニングの袋に入ったデニムのエプロンを引っぱり出した。
「頼んだ、バイト代払うわ……鞄ここの奥に入る? 心配やったらスマホと財布持っといて」
マジですか。あ然とする泰生の背後で、老婦人たちが、楽しげに手を叩く。引けなくなった泰生はエプロンを袋から出して、店長と同じ姿になった。
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