暗澹

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「…ッ、邪魔だ、このブス!」 うるさい。 「どっか行けよ。視界に入んな」 うるさい。 「うっざー…。近寄らない方がいいよ。」 うるさい―――! ダン、と思いきり拳を机に叩き付けた。教室に響く、痛い音。 一瞬、怯えたような視線が私に向けられる。幾つも幾つも幾つも! 脇に引っ掛けた鞄を荒々しく腕に掛けて、そのまま教室を飛び出す。誰も、何も言わない。うるさいよりはずっといい。 長い髪が目を覆って欝陶しい。ひらひらと、視界を横切る。 黒いそれよりも、私を取り囲む畏怖や好奇や侮蔑がひどく苛立った。 私を取り囲む世界は暗い。 世界というものは元来モノクロなのかもしれないと、小さい頃からずっと思っていた。それは私の目に、灰色のフィルターがかかっているのかもしれないということでもあるけれど。 そう、フィルター。 ひとはみんな、自分の目にフィルターを掛けているんだろう。汚いものを見ないように、見ないように。 それがピンクだったりブルーだったり、オレンジだったり。 たまたま私のフィルターが灰色で、世界のうつくしさも醜さも、すべて平等に映しているだけ。それだけなんだ、きっと。 皆、汚いものは見たくない。目を逸らしていたい。 私はただ、それを平等に映しているだけ。 きっと、それだけ。
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