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I ROBOT
私は、先代の主人からユリコ様に権利を移譲された、汎用メイドロボット。
事業家だった先代は、ユリコ様の誕生とともに私を購入した。私の購入金額は、平均的な国民の生涯賃金の二倍に近い。
私はユリコ様の保護、教育、生理上の身体管理を先代から任され、通算20年11ヶ月2日ユリコ様に奉仕している。
私に搭載されたAIは、製造会社のクラウドにリンクされ、主人のデータを蓄積、外部情報を取り入れ、主人の活動の補佐に最適な行動をとるようにプログラミングされている。
主人のデータが蓄積されているが故、個人情報保護法により特別な条件でない限り、他人への権利の譲渡はできない。アキラ様が口に出す『このガラクタを売ってしまえ』が無理なのは、この理由にある。
先代は、親族の裏切りで事業、資産をなくして自らの命を絶った。
残されたユリコ様への権利移譲は、先代の音声データによる遺言により、製造会社、裁判所によって許可された。
先代が亡くなった当時、生誕後17歳6か月4日のユリコ様はいつも泣いていた。
このままでは精神と生命の衰弱により、主人が死亡してしまうと予測した。ロボット三原則一条に抵触する危機に、私は自立行動回路の強化を行った。
私は外部からのデータを解析し、まずは主人の精神の安定化を計った。
人間心理のデータを精査し、解析、ユリコ様の現状にふさわしい言葉を、人間が癒しの周波数と名付けた音で、常に語りかけた。
大脳海馬の成長に必要な栄養素も、日々の食事に取り入れた。
ユリコ様の精神状態は回復され、新たな生活を送るようになった。
経済的問題は、先代を裏切った親族が見つけられなかった、または放置した微々たる資産を、ホストコンピュータのネットワークから見つけ出し、ひとつひとつ集め、金融商材とし安定利回りの投資を行った。生活費や学費に関して、ユリコ様の成人後までの問題はなくなった。
そして、主人の成人後からの人生をシミュレートした。
幸いなことに、ユリコ様にはピアノの才能があった。
過去にユリコ様が獲得したコンクールの受賞者名簿を精査し、過去の受賞者の実績からユリコ様の未来を予測した。
経済的にはユリコ様が老衰死するまで安寧であり続けると判断した。
老衰死は、ロボット三原則の第一条から除外されている。
ユリコ様が音楽大学に特待生として入学されたこともあり、経済的懸念はなくなった。
そうして、先代の死後3年2ヶ月13日目まで、私の計算通りにユリコ様の人生は進んでいった。
しかし、私の建てた未来予測に、大きな変数が現れたのは、ユリコ様が生誕20年8ヶ月24日目のことであった。
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