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甘い罠
その夜、帰宅されたアキラ様は昼間の表情とうって変わり、猫なで声と言われる音に近いトーンでユリコ様に提案を持ちかけた。
「なぁ、昼間は悪かったよ。オレも、同期のハヤトに売り上げ抜かれてイライラしていたんだ。ごめん。でも、こんな泣き言いえるのは、世界中でユリコだけなんだ」
「でも…… もう私、お金がないし…… お店からも目一杯前借りして……」
「すまない。でも、ここを乗りきったらホストを辞めて、ユリコと一緒に語った夢の店の第一歩になるんだ。いつも言ってたろ、新宿ナンバー1だったホストが開く店。カウンターだけのオーセンティックなバーにピアノを置いて、オレがカクテルを振る横でユリコがピアノを弾く……」
「……アキラの夢は叶えたいんだけど……」
「なぁ、今回だけ、今回だけでいいんだ。違う店で働いてくれないか?」
「違う店って…… まさか……?」
「たのむ! こんなこと頼めるのはお前だけなんだ。これもお前との夢を叶えるためのいっときの我慢なんだ」
ユリコ様は烈しく泣き始めた。
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