最悪のシミュレート・ケース

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最悪のシミュレート・ケース

 傍ら(かたわら)で聞いていた私は、シュミレート・ケース1の最悪ルートに進み始めたと判断した。  このやり取りの直前、アキラ様がユリコ様の耳に入らぬように、マンションのドアの前でしていた電話の内容を傍受していた。  通信相手は、ソープランドと呼ばれる風俗店の経営者。ユリコ様をその店に紹介する見返り、紹介料の交渉をしていた。  そしてその電話を切ったあと、新しく知り合った女性に電話をかけ、ユリコ様とは別れる。なぜなら、自分が愛想をつかされたから、と偽情報を語り、付き合い始めたユリコ様に言った言葉をそのまま電話口に語っていた。  アキラ様の存在を、ユリコ様から排除しなければ……  ユリコ様が風俗店に働きに行った場合と、アキラ様に別れを突きつけられたとき、二つの因子を加味して、ユリコ様の未来の心理状態を計算した。  ネガティブ。  どのシミュレートケースでも、主人の自死しか解答は導かれなかった。  アキラ様の排除が必要、それも早急に。  物理的方法は、ロボット三原則の第一条によって不可能。  アキラ様の周囲に働きかけ、社会的に排除する方法は時間的に不可能。  ユリコ様の愛情心理を薬物、洗脳操作などで変更させることは、倫理回路が許可しなかった。  私の128テラバイトのメモリーが高速回転する。  昼間欠損した回路にも、ショート寸前までの過電流が流れた。  8.6秒後、私の自立行動回路が最適解を導き出した。  
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