序章・Born To Be wild①

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序章・Born To Be wild①

大きなリンゴ(ビッグアップル)という別名を持つ都市、ニューヨークに真夏の光が燦々と降り注ぐ。 人口800万人を越えるアメリカ最大のこの都市は、あらゆる文化が入り乱れ、様々な肌の色の人種がひしめき合っていた。 特にショービジネスは、ここを拠点に展開する事が多く、ジェリー・エレフソンもまた、その世界で働く人間だった。 透けるような金髪、澄んだ空のような青い瞳に鍛えられた長身は、まるで俳優のようであったが、その容姿にしては勿体ないような職種に就いていた。 ジェリーは、ニューヨークでも有名なタレント事務所のマネージャーとして、毎日をあくせくと働いている。 何度か事務所の社長にも、モデルとして働かないかと誘われたが、元来の性質が生真面目で実直なジェリーには、華やかなモデルなどという仕事が向いている訳がなかったので、それを断り続けていた。 事務所は俳優やモデル、芸人などを多く輩出していて、テレビをつけて映る有名人の多くが所属していて、ジェリーの付いているレイ・ブラックは、まだ18になったばかりの新鋭モデルだった。 アメリカ先住民の血を引く浅黒い肌と、ヨーロッパ人特有の彫りの深い顔立ち、鍛え上げられた美しい肉体美は、アメリカの有名デザイナーから引っ張りだこだ。 レイはその美しさを認められて、世界的に有名俳優の出演が決まっている『Wild Red(ワイルドレッド)』という映画に、インディアンの青年役として決まったばかりである。 ジェリーは腕時計を見て、もうじき始まる撮影の為に、レイの楽屋に向かった。 「レイ!準備出来てるか?もう、カメラマンが……」 扉を開けたジェリーは、思わず全身を硬直させた。 部屋の中にいたのは、確かにレイではあった。 だが、指定された服を着ていない。 それどころか、どこから調達してきたのか、頭には大きな鷲の羽の飾りを付け、その顔や腕には、見た事もないペイントをしていた。 ファッションとして伸ばしていた黒髪も、その姿の為に伸ばされていたように見える。 アメリカの先住民たる血筋の風貌から、それはまるで過去からタイムスリップしたインディアンのようだった。
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