第一章・Jesus Christ Superstar 3ー③

1/1
前へ
/43ページ
次へ

第一章・Jesus Christ Superstar 3ー③

朝食を取りながら、ジェリーはタブレットを開き、ニューヨークタイムズを見ていた。 早速、社長が情報を流したのか『レイ・ブラック、記憶喪失に!』と、見出しのついたニュースが報道されていた。 文面を読んでみると、頭部を殴打した事による一時的な記憶喪失で、無理は出来ないが、支障のない仕事だけは最低限こなす事が書かれていた。 「頭を殴打したって……状況聞かれたらどうすんだよ。社長も適当に言ってくれたな」 「ジェリー。今日の仕事は何だ?」 「今日はVOGUE誌の表紙と巻頭写真の撮影と。ベンツのCM撮影。あ、ベンツって車の名前ね。運転しなくて良いから。車と一緒に映るだけだから。……て、大丈夫かなぁ……」 「その位なら大丈夫だろう。喋る訳でもないし」 「今日の報道で、スゴい数のマスコミが来るかも知れない。事務所にボディーガードも付けて貰うけど、俺も間に入るし。ウルフは何も答えなくていいからな。……て、言うか、何にも喋らないでくれ。お願いだから」 それこそ、インディアンが云々などと口を開けば、マスコミが『レイ・ブラックがついにおかしくなった』と、面白おかしく報道するに決まっていた。 「ここも、帰って来ない方が良いだろうな。今晩からセキュリティのしっかりしたホテルか、賃貸にでも移るか……」 「ジェリー……すまない」 「いやいや、これは俺の仕事だから。それなりの給料は貰ってるし。悪いな~と思ってくれるなら、仕事頑張ってくれよな」 「お前の為に、全力を尽くそう」 「いや、レイの為だから。レイの体だからね」 ジェリーは昨日、せっかく紐解いたレイの服を、またトランクに詰め直した。 そして自分の分の着替えもトランクに詰める。 時々は帰っては来なければならないだろうが、しばらくは家に帰れそうになかった。 ウルフにも荷物を持たせて、ひとまず事務所に向かう。 荷物はそこで一旦下ろして、撮影所に行く事にする。 今日は何人かのモデルが撮影に呼ばれていたのか、レイのニュースを見た者達が近寄って来た。 その度に「思い出せなくてごめん」とだけ、ウルフに喋らせるようにしていた。 女性モデルより、男性モデルの方がしつこくて、レイから引き離すのに苦労する。 モデルとダンサーには、圧倒的にゲイの確率が高い。 女性モデルは、レイがミラと付き合っている事を知っているので、それ程に食い下がらないが、男性モデルはそんな事はお構い無しだ。 男に迫られて、ウルフの端正な顔が怒りに歪む。   それを見て、ジェリーは間に入り、事を荒立てる前に無理矢理離れさせた。 安心したのも束の間、見知った人間がカツカツとヒールを響かせて近付いて来るのが見えた。 レイの恋人のミラだった。 ミラはヒールを履いているのもあるが、男のジェリーよりも背が高い。 さも当たり前と言った態度で、ジェリーを押し退け、ウルフの腰に腕を回して奪うようにキスをした。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加