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第一章・Jesus Christ Superstar 3ー③
朝食を取りながら、ジェリーはタブレットを開き、ニューヨークタイムズを見ていた。
早速、社長が情報を流したのか『レイ・ブラック、記憶喪失に!』と、見出しのついたニュースが報道されていた。
文面を読んでみると、頭部を殴打した事による一時的な記憶喪失で、無理は出来ないが、支障のない仕事だけは最低限こなす事が書かれていた。
「頭を殴打したって……状況聞かれたらどうすんだよ。社長も適当に言ってくれたな」
「ジェリー。今日の仕事は何だ?」
「今日はVOGUE誌の表紙と巻頭写真の撮影と。ベンツのCM撮影。あ、ベンツって車の名前ね。運転しなくて良いから。車と一緒に映るだけだから。……て、大丈夫かなぁ……」
「その位なら大丈夫だろう。喋る訳でもないし」
「今日の報道で、スゴい数のマスコミが来るかも知れない。事務所にボディーガードも付けて貰うけど、俺も間に入るし。ウルフは何も答えなくていいからな。……て、言うか、何にも喋らないでくれ。お願いだから」
それこそ、インディアンが云々などと口を開けば、マスコミが『レイ・ブラックがついにおかしくなった』と、面白おかしく報道するに決まっていた。
「ここも、帰って来ない方が良いだろうな。今晩からセキュリティのしっかりしたホテルか、賃貸にでも移るか……」
「ジェリー……すまない」
「いやいや、これは俺の仕事だから。それなりの給料は貰ってるし。悪いな~と思ってくれるなら、仕事頑張ってくれよな」
「お前の為に、全力を尽くそう」
「いや、レイの為だから。レイの体だからね」
ジェリーは昨日、せっかく紐解いたレイの服を、またトランクに詰め直した。
そして自分の分の着替えもトランクに詰める。
時々は帰っては来なければならないだろうが、しばらくは家に帰れそうになかった。
ウルフにも荷物を持たせて、ひとまず事務所に向かう。
荷物はそこで一旦下ろして、撮影所に行く事にする。
今日は何人かのモデルが撮影に呼ばれていたのか、レイのニュースを見た者達が近寄って来た。
その度に「思い出せなくてごめん」とだけ、ウルフに喋らせるようにしていた。
女性モデルより、男性モデルの方がしつこくて、レイから引き離すのに苦労する。
モデルとダンサーには、圧倒的にゲイの確率が高い。
女性モデルは、レイがミラと付き合っている事を知っているので、それ程に食い下がらないが、男性モデルはそんな事はお構い無しだ。
男に迫られて、ウルフの端正な顔が怒りに歪む。
それを見て、ジェリーは間に入り、事を荒立てる前に無理矢理離れさせた。
安心したのも束の間、見知った人間がカツカツとヒールを響かせて近付いて来るのが見えた。
レイの恋人のミラだった。
ミラはヒールを履いているのもあるが、男のジェリーよりも背が高い。
さも当たり前と言った態度で、ジェリーを押し退け、ウルフの腰に腕を回して奪うようにキスをした。
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