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第一章・Jesus Christ Superstar 3ー④
「ちょっと、レイ!ニュースで見たわよ。貴方、記憶喪失になったんですって?そしたら私の事も覚えてないの?」
「悪いが、覚えていない」
「Oh My God!信じられない!あんなに愛し合っていたのに!」
ミラは、自分の口紅がウルフに着くのも構わず、キスを続けた。
「思い出して、レイ。貴方は、とても情熱的だったわ。私に夢中だったのよ?……私の所にいらっしゃい。思い出させてあげるから」
ウルフはミラにキスされるがまま、黙り込んでいる。
ジェリーも端から見ていて、対処に困っているのは分かったが、どうしたものかと悩んでいた。
一流モデルでもあり、恋人でもあるミラを無下には出来ない。
かといって、ウルフを連れて行かれると、ボロを出しそうでそれも不味い。
ジェリーが目頭を押さえて苦悶の表情を浮かべて悩んでいると、ウルフは口を開いた。
「今は、お前を愛していない。悪いが、別れてくれ」
「……何を言ってるの?レイ?それは、覚えていないだけでしょ。この私が愛してあげたのは……」
「もう、愛してくれなくて結構だ」
「……随分と偉そうな口をきくようになったわね。覚えていないのなら、許してあげる。でも私の言う事を聞いた方が無難よ、レイ」
再びキスをしようとするミラに、ウルフはその顔を背け、体を押しやった。
「昔からお前を愛していなかった事だけは覚えている。お前には、憎悪しか感じない。……私に触るな」
「ゆ、許さないわよ!レイ!ここまで有名にしてやった恩も忘れて!……ニガーのクセにっ!」
ミラの侮蔑は、ウルフを激怒させた。
神聖なるインディアンの魂を侮辱され、その背中から憤怒の炎を立ち上がらせる。
ミラの襟首を掴み、ウルフの拳がミラに向かう。
ジェリーはそれを咄嗟に察知して間に入り込み、その拳はミラに届く事なく、ジェリーの頬にめり込んだ。
「ミラ!すいません!……レイは、本当に何も覚えていないんです。必ず、思い出させますから、少しお時間を頂けませんか?申し訳ありません」
自分を庇って、口から血を流しているジェリーの勢いに圧倒されて、ミラも冷静になった。
「……覚えていないなら、仕方がないかも知れないわね。私も無理を言ってしまったわ。思い出すようなら、連絡をちょうだい」
「……申し訳ありません」
ミラは不服そうにしながらも、美しいプラチナブロンドを翻して、颯爽と去って行った。
「ジェリー!お前を殴ってしまうなんて……すまない!」
ウルフは自分のした事に慌てふためいて、ジェリーの顎をとらえ、その傷を確認した。
「大したことないよ。ウルフ。でも、あんな事をしちゃダメだ。確かに人種差別は許されることじゃないが、それを暴力で解決するなんてもっての外だ」
「……だが、あの女はインディアンを蔑んでいる」
「だとしてもダメなんだよ。君の体もだが、彼女の体には何億という保険が掛けられている。ケガの一つで莫大な金が動くんだ。だから、絶対に傷を付けるような事をしたら駄目だ」
「ジェリー……」
「純粋な君には、生き難い世の中だね。本当にゴメン。でも、現代ではどんなに罪深くても、暴力で解決したら駄目なんだ」
ウルフは、クシャリと顔を歪めて、己の行動を悔いる。
そして、ジェリーの口角から流れる血をペロリと舐めて言った。
「レイの心は、あの女にはない。それが今、はっきり分かった」
ジェリーは、まるでキスされたような気になってしまい、羞恥でその顔を真っ赤に染めた。
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