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第一章・Jesus Christ Superstar 4ー④
あらゆる情報が漏れるのを恐れて、ジェリーはタクシーを使うのをやめた。
自分が運転した方が、ウルフも移動中は心置きなく話せると思ったからだ。
「ウルフ……君ね。何で俺に勃起する訳?それも頻繁だよね?昨日の晩から、5回は勃ってるよね」
今朝に至っては、完全なるフル勃起で、それも服越しでなく生で見てしまった。
単に朝勃ちかと思っていたら、一度治まった筈のソレが、ジェリーの着替える姿を見てまた復活していたので、朝からてんやわんやの大騒ぎだった。
「何故だか分からない。お前が近くに寄ると堪らなくなる……」
「他の人にもなってる?……例えば、午前中に会ったミラとか」
「あの女の顔を思い出しただけで萎える。不能になりそうだ」
恋人に対して何て事を言うんだ、と思ったが、ミラはレイの恋人ではあるが、ウルフの好みからはかけ離れているのかも知れない。
「……何で俺なんだよ……」
「私にも分からない。今まで女しか抱いた事がないし、今までの妻に不満があった訳でもない。自分がニーシュ・マニトゥワクだとも思った事は一度もない」
「ニーシュ……って、何?」
「トゥ・スピリット(二つの魂)だ。男を愛する者の事を言う」
ネイティブ・アメリカンにもゲイがいたのか、と初めて知った。
ジェリーはゲイという人種を差別するつもりなかったが、自分は完全なる異性愛者だったので、今までの人生で幾度となくアプローチはされてきたが、丁重にそれをお断りしてきた。
今日の監督だけではなく、特にこの業界の人間はゲイの人間が多かったので、断るのもひと苦労ではある。
だが、恵まれた容姿を持つジェリーは、断る事にも慣れていたので、これまでさして気にした事はなかった。
「ウルフは俺をどうしたい訳?俺は男とはセックス出来ないよ。申し訳ないけど。俺は男には勃たないし」
ウルフは無言になった。
ウルフ自身も、こんな事は初めてでどうしたら良いのか分からないでいた。
ただ、体がレイの感情に引き摺られているとは、レイを弟として見ているジェリーには伝えられなかった。
そして、それはまたレイのせいだけでもない事は、さっき思い知らされた。
ジェリーが他の男に触られているのを見た瞬間に、頭が沸騰するかと思った。
ジェリーが止めなければ、あの腕を本当に折り曲げて、潰しかねない自分の感情のままに、行動していただろう。
体の中に住む、大いなる大地の精霊が、ウルフ自身を否定するなと語り掛けてくる。
だが、澄んだ魂を持つジェリーを、自分の手で穢すのだけはしたくなかった。
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