序章・Born To Be Wild②

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序章・Born To Be Wild②

「……れ、レイ?……あのな、今日は『Wild Red』の撮影じゃないぞ?あれはまだ先の話だ。今日は、ファッション雑誌の撮影でな……」 「お前は誰だ」 「は?」 「お前は誰だと聞いている」 「何言ってんだよ!俺は、お前のマネージャーだろ?どうしたんだよ、一体……」 「マネージャーとは何だ?どうして私はこんな所にいるんだ?」 レイの口調がおかしい。 生粋のニューヨーカーであるレイは、ニューヨーク訛りが激しかった。 余りにもその訛りが酷いので、「これから俳優としても売り出す為に直せ」と、注意し続けていなければならない程だった。 今は、まるで全くの別人のような語り口調だ。 見た目は間違いなくレイの姿だが、動作はまるで違う人間のものだった。 「レイ……。レイ・ブラックだよ……な?」 その余りの威圧感に、ジェリーは思わず確認してしまった。 「私は『ステッペンウルフ』。ブラックフット族の戦士だ。何故、こんな所にいるのか、記憶にない」 「なっ、何言ってんの~!ステッペンウルフって何だよ~!昔のロックバンドじゃないんだよ~!」 ジェリーは、突然の事態にパニックになった。 レイは決して、悪ふざけするようなキャラクターではなかった。 真面目な勤労高校生だった彼をスカウトしたのは自分だ。 確かにインディアンの血を引く事で、その生い立ちは貧しかったが、家族を養う為にこの業界に飛び込んだという、家族思いの少年だった。 今、目の前にいる男は、18歳のレイではない。 体はレイのものではあるが、中身はもっと円熟味を増した青年のものだった。 「私は何の為にここに存在するのか。与えられた使命を持って生まれてきた筈だ。……なのに、今の私の頭の中には何もない。戦士としての記憶は辛うじてあるが、メディスンマン(宗教的指導者・聖人)は、私にどうしろと言うのだ?」 「うわぁぁぁぁあ!レイが壊れたぁ!」 「私は、レイなどという名前ではない。『ステッペンウルフ』だと言っただろう」 とにかくこれでは仕事にならない事だけは、パニックになったジェリーにも理解出来た。 ポケットから震える手でスマートフォンを取り出し、事務所の社長に電話をかけた。 「しゃ、社長……。すいませんが、レイの……その、体調が悪くてですね。……はい。ですから、近くにいる代理のモデル、回せますか?レイの代わりでも許されるモデルで……あ、ドンがいます?そしたら、彼にお願いして下さい」 ジェリーは電話を切った後、深い溜め息をついた。 とにかく落ち着こう。 しばらく深呼吸を繰り返してから、レイに向き直った。
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