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第2章・Crazy Wolf 1ー①
今日朝一番の仕事が変更になったと聞いて、2人はリビングでゆったりと過ごしていた。
ウルフは、あれからやたらと接触して来るようになって、ジェリーは少し困惑ししていた。
男には感じない筈なのに、時々、そのセクシャルな触れ合いから勃起してしまうのだ。
それでもウルフは、決してそこには触ろうとしないので、ジェリーはこっそり自分で抜くしかなかった。
無理矢理はしないと言ってくれたのは嬉しかったが、こんな風に煽られる位なら、触って達かせて欲しいとすら思っていまう自分がいる。
だが、そんな事は絶対に口には出来ない。
ウルフに大切にされ過ぎて、迂闊にも口を滑らせて幻滅されたくはない。
近頃のジェリーは、ジレンマに苛まれていた。
コーヒーを飲みながら寛いでいると、ジェリーの携帯が鳴る。
それは事務所からの電話だった。
「はい、ジェリーです。え?仕事ですか?今朝は中止になったんじゃ……。はぁ?い、いえ!……すいません!ドンに謝っておいて下さい。今、すぐに出ます」
ジェリーはすぐに荷物を準備した。
ウルフにも声をかける。
「ウルフ!大変だ!今朝の仕事、変更じゃなかった。すぐに事務所へ行くぞ!」
「今からでも間に合うのか?」
「今日のはもう、代わりにドンが行ってくれた。とにかく謝るしかない」
すぐにマンションを出て、車で事務所に向かう。
ジュリーは『ハメられた』と分かった。
変更になったと、連絡してきたのはドンのマネージャーのテリーだった。
テリーは以前からレイの付き人になりたがっていて、何度かジェリーに代わってくれと詰め寄って来ていた。
だが、レイという人材を見つけてきたのはジェリー本人ではあったし、レイを一流に育てる責任があると思っていたので、それを受けるつもりもない。
ドンの我が儘に耐えかねていたのか、忙しくなる一方のレイを羨ましく思ったのかは分からないが、テリーは会う度にそれをアプローチしてくるので、ほとほと困り果てていた。
事務所に着くと、撮影を終えたドンとテリーが、どうしてくれると言わんばかりに待機していた。
「ジェリー、職務怠慢なんじゃないの?いくらレイが記憶喪失で世話が大変でもさ、すっぽかしはないだろ?……ま、今回は俺がいたから、助かったけどね」
ドンはジェリーの肩に腕を回して、馴れ馴れしく言い寄って来た。
ドンはテリーとグルだ。
テリーとは思惑は違うだろうが、レイに嫌がらせしたいが為になら嬉々として乗ってやったのだろう。
それでも、テリーからの変更になったという電話を録音でもしていれば別だが、何せその証拠がない。
それも事務所からの電話番号だったので、テリーが自分ではないと言いきられればそれまでだ。
「ドン。いつも本当にすいません。貴方が機転の利く多彩な方なので、私もレイも救われています」
「そうだろ?レイの仕事なんてさ、俺の方が上手くこなすよ?俺なら、黒い肌を嫌がる奴らにも反感買わないだろうしね。そもそも、インジャンなんかがモデルやるのは無理があるんだよ」
インディアンを侮蔑する言葉を吐くドンを殴りかかろうとするのではないかと、ジェリーは不安になってウルフを見ると、どうやらテリーと話をしていて聞こえてはいないようだった。
「俺がいて助かったな。これは一つ貸しだよ?」
「……すまなかった」
「今回は何とかなって良かったけど。……良かったらさ、俺のマネージャーになる?何なら、僕から事務所に話しても良いし……」
「それは断る!」
ウルフは即答した。
その瞳には、怒りの炎が燃え盛っていた。
車の中であらかたの話を聞いていたウルフは、ジェリーを陥れようとするドンを憎悪していた。
口が悪くても穏和なレイと違い、物腰は柔らかでも獰猛なウルフは、性質としては正反対の2人だ。
ましてや、インディアンの為に闘う戦士として、人を殺すことを生業としてきたウルフは、敵意を向ける者に対して躊躇いはなかった。
「私は、ジェリー以外の者には付かせない。何を企もうとも無駄だ。……もし、今後、同じような事をしてみろ。たとえこの身が滅ぼうとも、お前達を社会的に抹殺してやる。……この下衆が」
ウルフの殺意を含んだ瞳は、テリーを完全に圧倒している。
その潔癖なまでの自らの信念を害するものへの排他は、ジェリーには羨ましい程だった。
保身の為に媚びへつらうような自分とは違い、極端過ぎるようであっても、それの姿は美しさすらあった。
「ジェリー、行くぞ。社長にも謝りに行くんだろう?」
唖然とするドンとテリーを置いて、ウルフはジェリーの手を引いて行った。
ジェリー以外の者には付かせない。
ウルフのその言葉は、ジェリーを舞い上がらせた。
涙が出そうな程に嬉しかった。
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