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第2章・Crazy Wolf 1ー②
社長室でひたすらに謝罪するつもりだったジェリーだが、ウルフがこの度の全てを暴露してくれたので、社長も納得がいったようだった。
「ドンとレイが噛み合わないように、少し仕事を考えよう。……とは言っても、アイツも『Wild Red』には、白人警官の役で出る事には決まっているからなぁ。そこは、現場が重なるのは仕方ないが」
「主人公のジョン・ディラーの部下役ですよね?同じ主人公のレイよりは、下の配役ですが……また不満に思って暴れませんかね?」
ジョン・ディラーは、アメリカでは一番収入のある役者として、世界的にも有名な俳優だ。
その彼が出演する映画の、もう一人の主人公として選ばれたレイは、モデルから転身して初めての映画出演でもあり、撮影前から話題を集めていた。
『Wild Red』は、白人兵士役のジョン・ディラーと、インディアン役のレイが、戦争を通じて出会い友情が芽生えるというストーリーだ。
その話をウルフにした時、『そんな白人が何人もいれば、歴史が変わっていたかも知れない』と寂しそうに言っていた姿が忘れられない。
この映画だけは、何とか成功させたい。
モデルの仕事には年齢的な限界がある。
レイを役者として成功させられれば、レイのこれからの人生は、もっと華やいだものになるだろう。
ドンは、その映画でも脇役を当てられている事で、レイへの嫉妬が更に積もっていたのだと思われた。
「一応、会社の方からも映画に徹するようには忠告しておくよ。ジェリーも身を引き締めて付いてやってくれ」
「はい。これはレイの役者人生を賭けた仕事だと思ってますから、俺が矢面の盾になってでも、成功させてみせますよ」
ウルフは、ジェリーの献身さに愛しさを覚えた。
それと同時に、これ程に尽くしてくれるのは、何よりこの体がレイの物であるという現実に失望もしていた。
同じ体である、うちに潜むレイへ嫉妬している自分。
戦士として命をインディアンの為に課していた頃には、こんな情けない感情に囚われた事はなかった。
妻達は、自分にかしずき、崇めるように奉った。
愛や恋にうつつを抜かした事のないウルフは、ジュリーへの初恋に臆病になっていた。
ジェリーは、レイへ並々ならぬ愛情を注いでいる。
それは弟への親愛の情に他ならなかったが、肉親のいないジェリーには最上級の愛だ。
愛に飢えたジェリーは、現実味を帯びない空想のような存在である自分にすら優しい。
それは同情のようなものかも知れない。
近頃は、体に触れるのを許してくれるようになって、ウルフの手に感じるようにもなった。
だが、それは男の生理としては当たり前のものだ。
もしかしたら、レイが同じように触れていれば、セックスを許していたかも知れない。
恋とは、こんなにも人を弱くするのか。
死をも怖れなかった自分が、ジェリーの一挙一動に翻弄されている事に、ウルフは混乱せずにはいられなかった。
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