14人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章・Jesus Christ Superstar 1ー②
ロビーを抜けようとした時、同じくモデルのドン・クローリーとすれ違った。
ドンは、白人特有の白い肌、明るい亜麻色の髪と、琥珀色の双眸で、その甘いマスクが若い女性に人気のモデルだ。
年齢は、25とレイより少し上ではあったが、同じく俳優の仕事に手を伸ばしていて、事務所はレイと共に新鋭モデルの二枚看板として売り出していた。
「よう、レイ。お前、体調崩したんだって?その割には元気そうじゃねぇかよ」
ジェリーは、ウルフの耳元で「同じモデルの人」とだけ説明した。
「急にさ、俺に仕事振ってくれちゃって、余裕だな。俺だってこれでも結構忙しい体なんだから、急にこんな事をされちゃ困るんだよ」
「それは申し訳なかった」
「何、それ?どれだけ上から目線だよ?」
長時間、話をさせるとボロが出ると感じたジェリーは、2人の間に入った。
「申し訳ありません。そうは見えないかも知れませんが、レイは高熱で意識が朦朧としているんです。この度は代わって頂いて助かりました。ありがとうございます」
「ジェリーも有能なんだからさ、こいつに付くより、俺に付いたら?あんたも見た目、そこそこ良い素材なんだから、俺の側にいたらおこぼれが貰えるかもよ?」
「お言葉だけでも光栄です。すいません。レイを病院に連れて行きますので」
ジェリーは、ウルフの腕を強引に引っ張って、事務所を出た。
タクシーを捕まえると、病院名を運転手に告げて、背凭れに倒れ込んだ。
「ジェリー、大丈夫か?」
「ドンは……、あ、さっきの人だけどな。レイに物凄い敵対心を持ってるんだよ。同じ時期に、同じ土壌からデビューして、レイに仕事を取られてるから、その恨み方が尋常じゃないんだ。だから上手くかわしてくれ……って、言っても難しいよな」
「相手にしなければ良いんだな?」
「まるで、無視もマズイんだよ。あぁいうタイプは、構ってやらないのもプライドに傷がつくんだ」
「面倒臭いな。現代の人間は」
「ゴメンな。とにかく今から一応、脳波とかもチェックするから。ウルフを疑う訳ではないんだけど、ここははっきりさせないと、この世界ではダメなんだよ」
病院には、前もって予約しておいたので、待たされる事なく検査は進んだ。
結果は、脳波も異常なし。
脳だけでなく、体もCTやMRIや、血液検査まで、調べられるあらゆる事を検査したが、何も異常は出なかった。
ウルフのこの状態を医者に相談してみると、過労だの精神疾患かもだのと言い出すので、適当に答えて病院を後にした。
そもそも理系の医者に、この超現象に病名を付けさせようとした事が無謀だった。
タクシーをレイの家に向かわせて、必要な荷物を取りに行く。
当然の事ながら、レイの記憶のないウルフに的確に荷作りなど出来る訳もなく、結局、ジェリーが一人でトランクに衣服を詰めた。
「ジェリーは何でも出来るんだな。さっきの奴も言っていたが、お前は本当に有能だ」
「俺みたいなのは有能とは言わないんだよ。クソ真面目に仕事をこなして、時間通りに動いて、決まった行動しか取れない。本当に有能っていうのは、レイのように他人を魅了する事の出来る、才能のある奴をいうんだ」
「そう言われると、私も頑張らないとならんな」
「精一杯、頑張ってくれ」
ジェリーがトランクを運ぼうとすると、物凄く自然な仕草で、ウルフはそのトランクを自分の手に移動させた。
「俺が運ぶよ。お前はタレントなんだから」
「私の方が体は大きい。どうして力もあるのに、お前に持たせなければならない?」
ジェリーは、まるでエスコートされた女性のような気持ちになって、頬を染めた。
自分も5フィート10インチはあるので、決して小さい方ではなかったが、確かに大柄なウルフに比べたら二周りは小柄に見える。
ここで揉めてもどうしようもないと思い、ジェリーはそのまま甘える事にした。
最初のコメントを投稿しよう!